中日ドラゴンズのファンか、よほどのプロ野球大好きな方でなければ、名前すら知らないと思います。
プロ入り三年目の若干20歳のピッチャー。
福岡・祐誠高校出身で、甲子園出場はなく全国的に無名の選手でしたが、ドラゴンズ九州担当を務めていた渡辺麿史スカウトが二年の時から追い続け、2012年ドラフト7位で指名されました。
身長180cm、体重75kgと大きくない身体から投げるストレートは最速でも143km/hとずば抜け速い訳ではありません。
変化球もカーブ、スライダー、チェンジアップ、フォークを操るものの、絶対的なボールではありません。
特技は小型車両系建設機械の資格があり、3トン以下の重機を自在に操ることが出来ます(高校では土木科で二年生の時に取得)。
昨年は7試合に登板、2試合に先発しながら結果を残せませんでした。
秋季練習の紅白戦では4回ノーヒットで「監督賞1号」にもなりました。
今春のキャンプでは一軍に抜てきされ、期待されていたものの、4月26日の横浜DeNAベイスターズ戦で援護をもらいながら試合を作れず二軍に降格。そして再昇格した5月27日の福岡ソフトバンクホークス戦で、二回途中からロングリリーフで好投。
そして、7月2日の埼玉西武ライオンズ戦で先発。初回を三者凡退に封じるのですが、その後は毎回ランナーを出す展開。しかし、二回、五回の満塁のピンチも、強気の勝負で得点を与えず、六回130球を投げ3安打無失点、8奪三振でマウンドを譲り、その後をリリーフ陣が抑え、プロ入り三年目で初勝利を挙げました。
試合後のお立ち台で「今、もう、この世にはいないんですけど、ドラゴンズに入らせていただいたスカウトの渡辺さんに早くウイニングボールを渡したくてやってきたんですかど、しっかり投げれて良かったです」と語りました。
その渡辺さんは、昨年の2月に急性白血病により57歳で亡くなっており、恩師に捧げる1勝となり「ありがとうと言う言葉しかない。これから、もっと感謝の気持ちをもってやっていきたい」と若松選手は言っています。
若松選手をドラフトで推薦した理由を聞かれた渡辺さんは「下位ですからね。スカウトの好みもありますよ。ボールに角度があってね。コントロールがいいんです。高校のグラウンドでお客さんを見つけると、全力で走ってあいさつに来るんです」と、まるで息子に向けるような優しいまなざしで生前語っていました。
初勝利の日の天気は雨でした。2勝目は七夕。思いは天国に届いたのでしょうか。
そして、3勝目を挙げた日は、まるで梅雨明けのような暑い日でした。
きっと「これなら大丈夫」と天国の恩師が安心して、暑い九州と同じに暑くしたのだと思います。
三年目の無名な若者の今後の成長が楽しみです。
(14日付けの中日スポーツ・愛知県版のTV欄。左側を縦にお読みください)