史上初の東北勢・秋田県勢の優勝が期待されたのですが、やはり、終わってみれば、大阪桐蔭高でした。
しかし、大阪桐蔭高の目標は「甲子園」ではないそうです。
現在の日本一強い高校野球児たちが集まる大阪桐蔭高の球児が、上を目指しているのだから、強いのも当たり前というものでしょうか。
今年も大阪桐蔭高にはプロ注目の選手がいます。野球センスの塊のような選手が、勝って当たり前のプレッシャーの中で闘い続け、日本中の注目も集めるのですから、さまざまな経験の高さが、大舞台に置いても強さを発揮するのでしょう。
ただし、この選手権も、あっさりと大阪桐蔭高のひとり勝ちにはなりませんでした。それでも、接戦でも勝ち進んでくるという、わずかな差がその経験値の違いに現れてくると思います。
ある雑誌の記者が1月末に取材で、大阪桐蔭高のグラウンドを訪れた時のことです。
練習時間なのに、主力選手の1人がグラウンドの外にいました。そこでバットやグラブを手にして特別な練習をしているのではなく、体力アップのためのトレーニングをしているわけでもなく、「草むしり」をしていたそうです。
シーズンまで約2ヶ月となり、誰もが本番に備えて少しでも余計に練習していたい時期であり、主力選手であることを考えれば、焦ってしまう時期でもあります。
その記者は何が理由なのかは訊かなかったそうですが、その選手は雑草の生えた場所を端からきちんとむしっていたそうです。そして、その雑草を手押し車に集めると、決まった場所まで運び、そこにきちんと積んでいく作業を繰り返していました。ペナルティーを課せられた“嫌気”や”投げやり”感はなく、指示されたことに向き合って、ひたむきにこなしている、丁寧な仕事をしていたそうです。
室内練習場に行く時に、「たいへんだなあ……こんなにやるんだ」と脇をとおって声をかけてみると、ちょっと恥ずかしそうにしながら帽子をとって、「はい、でも、今、自分がやるべきことは“これ”なんで」と声の調子は控えめだったものの、前向きな返事だったそうです。
「そうか……頑張ってなって言うのも変だけど、でも頑張ってな」と言うと、選手は、「自分たちはいつも、今、何をすべきかを考えながらやってきたんで。自分は今、グラウンド外ですけど、やっぱり自分が何をしなきゃいけないかを考えてるんで」と答えたそうです。おそらく、その選手は何らかのペナルティーでもあったのだと思います。でも、その選手は、他人のせいにしていません。今度のことを、自分がさらに強く、大きくなるための礎にしようとしていたのです。
大阪桐蔭高の選手らは「甲子園で勝つために」というのは、ほんの途中経過の目標なのかも知れません。低い次元での意識しか持っていないのでしたら、「こんな時期に草むしりなんて」「甲子園で活躍できなかったら」「監督のせいだ、部長のせいだ」と、他人のせいにしていることでしょう。
たまたまその選手だけかも知れませんが、きっと大阪桐蔭高の選手たちの目指しているところは、もっと先の、もっと大きなものなのかも知れません。
高校野球をとおして、自分はどうあるべきなのか、どうするべきなのか、一人の人間として、社会の中で生きて行く人間として。
第100回全国高校野球選手権記念大会第16日は8月21日、甲子園球場で決勝が行われ、北大阪・大阪桐蔭高と秋田・金足農高が対戦し、大阪桐蔭高が13-2で勝利。4年ぶり5度目の優勝を果たしました。
また、史上初となる2012年以来6年ぶり、2度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭高。おめでとうございます。
(画像は画面キャプチャ)
金足農 0 0 1 0 0 0 1 0 0|2
大阪桐蔭 3 0 0 3 6 0 1 0 x|13
大阪桐蔭高は初回にタイムリー2ベースヒットなどで3点を先制しました。4回にも追加点を挙げ、6-1で迎えた5回裏には、2ランホームランなど打者一巡の猛攻で6点を挙げ、リードを広げました。敗れた金足農高は、投打に精彩を欠き、東北勢初の優勝とはなりませんでした。