今年、日本ではラグビー・ワールドカップが開催されます。
しかし、ひっそりと南の方から聞こえてきた残念なニュースがあります。私の気のせいかも知れませんが、あまり話題になっていません。世間の関心が低いのか、それとも、正式な話として伝わっていないのか。
「2020年をもってサンウルブズはスーパーラグビーから除外となる」
そのニュースは2019年3月20日でした。リークしたのはオーストラリアの日刊紙です。インターネットのニュースサイトのトップページに現れたそのニュースは、にわかに信じがたいものでしたが、3月22日にスーパーラグビーを主催する団体SANZAARは、「2020年をもってサンウルブズのリーグでの活動が終了する」ことを正式に発表しました。
サンウルブズ自体、決して強くはなく、1年目は1勝、2年目は2勝だった。3年目は3勝でしたが、一段一段強くはなってきています。
決して強くはないのですが、昨年、ニュージーランドのウェリントンに本拠地を持つハリケーンズ(初優勝までに20年かかった)との試合前、長年同チームの広報担当を務めてきた男性がロッカールーム前の廊下で、「スーパーラグビーはタフな戦いだよ。最初から何もかもがうまくいくわけはない。だから焦っちゃいけない。1年、また1年、しっかりと力を蓄えていけば、きっとサンウルブズは優勝を狙えるチームになっていくよ。大丈夫、100年も待たなきゃいけないわけじゃない」と言っていたそうです。
そして、 2019年シーズンが始まる1カ月前、都内で行われた記者会見の席で、サンウルブズの新ヘッドコーチに就任したトニー・ブラウンさんは、「今年はすべての試合を勝ちに行きます」「今シーズンのサンウルブズにはそれだけの力があると思っています」と、言葉を選んで話す方が確固たる口調でそう語りました。
この3年間で積み上げてきた経験と選手層の手ごたえが、スーパーラグビーに挑んで4年目を迎える今シーズンに向けての自信になっていたと思います。
そして、今年のサンウルブズは本当に強かったのです。
2月16日にシンガポールで行われたシーズン開幕戦では、南アフリカのシャークスに10-45で敗れたものの、続く第2戦の秩父宮ではオーストラリアの強豪ワラターズを30-31まで追い詰め、3戦目にはアウェーのニュージーランド遠征でチーフス相手に30-15の勝利。その後は3連敗となりましたが、どの試合もこれまでの3シーズンとは明らかに違う、極めて内容のある試合でした。
表向きは現在行われているスーパーラグビーが参加15チームの3カンファレンス制(システムが複雑であまり好評ではなかった)を変更し、2021年からは14チーム総当りのリーグ戦に戻すことが目的だと言われています。
ただ、一方で、SANZAARとしてはサンウルブズの残留のことを考え、現行のシステムを維持するために必要な資金を支払えばサンウルブズがリーグに残ることも可能、という条件を提示していたそうです。ただし、サンウルブズ側からはその金額を支払うことは不可能という返答があったようです。
日本ラグビー協会とサンウルブズを経営するジャパンエスアールは、SANZAARの発表を受けて緊急の記者会見を開きました。サンウルブズの価値は理解しているが、SANZAARから突きつけられた条件はあまりにも厳しく、到底応じられるものではなかった、というのが会見を通じての結論でした。
前日本代表ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズさんの助言によって、日本で初めてできたプロラグビーチームは、たった5年で活動に幕を閉じます。なんと残念なことで、なんと悲しいことなのでしょう。
いくら弱くても、サンウルブズは日本のチームであり、たとえグラウンドの中でプレーするのが日本代表とは関係のない外国人選手でも、その選手が活躍してサンウルブズが勝つならなんの問題もない、と答える新しいラグビーファンもいます。サンウルブズは少しずつ、社会的に受け入れられつつありました。そして、世界のトップレベルの真剣勝負を東京で見られる機会が簡単に失われてしまったのです。
スーパーラグビーからの除外というニュースから1週間後、サンウルブズはオーストラリアで、カンファレンスの首位を走るワラターズに31-29で勝ち、今シーズン2勝目を挙げました。
これから、日本ラグビーは、どこに向かってトライしようしているのでしょうか。そのゴールポストは、私には見えなくなってしまった。