【「白の名局」こぼれ話あれこれの巻】
■世に名局は数々あれど、その基準とは何か?
失着・悪手がなく緩手・疑問手が少ない優等生の碁か。
例え凡ミスがあっても激しい攻防や話題性のある碁か。
わたしは、前者は「勉強」のため、後者は「楽しみ」のため、どちらも味わいたい。
失着・悪手がなく緩手・疑問手が少ない優等生の碁か。
例え凡ミスがあっても激しい攻防や話題性のある碁か。
わたしは、前者は「勉強」のため、後者は「楽しみ」のため、どちらも味わいたい。
■大坂での隠居生活で、幻庵は激しい気迫の碁から脱し、芸の碁になったのではないか。四段の秀策(18)に対し、5局打って勝碁はゼロ。「秀策は既に七段の力があった」とはいえ、「楽しむ碁」になっていたのは間違いない。そうであったとしても、手合割(実力差に応じたハンディ)に厳格だった当時、大三冠クラスの準名人が、御城碁の出場権すらない四段に対し、ハンディなしで対局するのは異例中の異例。幻庵の柔軟な考えに注目である。
■出生地も実名も不明。姓は橋本、自著「囲碁妙伝」では武門の生と記している。隠居後になぜ大坂に居を構えたか。これもはっきりしない。「耳赤の局」は3日間の入念局だが、会場は商家だったようだ。江戸では大名や旗者の屋敷が多かったが、東西の土地柄の違いも興味深い。
■「耳赤の局」が打たれた年は、江戸城の火災があった。諸大名に築城費用を課した幕府に対し、諌める旨の上書を提出し、閉門に処せられる。しかし、その後に将軍家慶は諸侯への課金を減じ、処分を解かれ、「幻庵因碩」の名が再び大いにとどろいた。
■「兵法家」を自任し、「孫子」「論語」などの造詣も深く、著書でもしばしば引用している。囲碁妙伝で「勝負のみにて強弱を論ずるは愚の甚だしき也、諸君子運の芸と知りたまえ」と書き残した。
◇
■近年、人工知能(AI)の碁が、プロ・アマ問わずに手本となっている。「AI先生」と呼ぶプロもいる。
■当初、AIは古今東西の碁を研究し、そこに自己対局を数千万回繰り返す深層学習(デープラーニング)で短時間に棋力を向上させた。
■ところが、最新型は人間の碁を参考にせず、ひたすら「自己対局のみ」で従来型を凌駕するようになった。5日足らずでトップ棋士を追い抜き、20日で従来型を超えた。
■市販ソフトでは、一手一手の価値を数量的に評価し、形勢を数値表示するものも表れた。わたしが今年1月購入したソフトは、こちらが上手く打てても50手まで。その後、一手のミスで引き離される。AIの碁は「いやらしいところに打ってくる」「間違えない」のが特徴。コウや死活が弱いのが課題といわれるが、中盤で勝負はついてしまう。
■芸にロマンを求めた幻庵のような打ち手に、現代碁はどう映るのだろうか。
▲最新型AIはプロ棋士を圧倒する棋力を持つようになった。市販ソフトで十分も強い。わたしは序盤で善戦したとしても、中盤からは全く勝負にならない。