【筋書きのないドラマ、しかし序章 の巻】
ひっこみがつかぬ
芝居道の通語から出たことば。
舞台に出ている俳優が
どうもきっかけがなくなって
ボンヤリして引き込むことのできな状況をいう。
それが転じて、
何か失策をしたヒトが
どう始末をつけてよいかと
さっぱり分からぬこと。
あるいは借金などに在ったとき
先方にお客などあり話も出来ず
かといって黙って帰るわけにもいかず
ただ手持無沙汰でポカンとしている場合にも使われる。
カオスの状況のなかでも
正常な判断を下すことができれば
それは いっちょまえの政治家といえよう。
では、ぶち壊しにしてもなお
去り難しでは、一体何をしにきたというのか。
誉め言葉に慣れた身にとっては
ちくりペンの力に いささか腹も立とうが
開き直っての逆切れは もうやめておくれ。
飛ぶ鳥跡を濁さず、といきたいものである。
✕ ✕ ✕
なお
「ひっこみ」は「ひきこみ」とは違います。念のため。
「引き込み女」 商家へ奉公人として潜り込み、蔵の鍵の型を盗み取ったり、押し込み当日に内側から入り口の鍵を開けるなどして、盗人一味の手引きをする女のこと。
女密偵おまさは、かつて同じ頭の下で引き込みを勤めた女盗のお元を見かけた。
おまさは、ぼんやりと川面をみつめるお元の様子に不審を覚えた。
お元は、引き込み先の主人と「ぬきさしならぬ……」ことになってしまっていた。
<鬼平犯科帳より>