囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

狐その尾を濡らす

2020年12月27日 | 雑観の森/芸術・スポーツ

 

文壇本因坊の著書を孫引きとして その12 の巻】

 


妙手・鬼手を放って「カミソリ坂田」と呼ばれ、

「坂田は遠くなりにけり」とまで言わしめた昭和の巨星。

あの坂田栄男(1920~2010年)も後進の追撃に遭遇した。

名人2連覇後の1965年、当時23歳の林海峰の挑戦を受ける。

対局前に「20代の名人はありえない」と豪語したものの、

坂田有利の大方の予想の中で、名人位を奪われる。

続いて翌年、翌々年のリターンマッチにも敗れた。

その後に復活し「第二の黄金期」を迎えるものの、

時の流れは残酷であり、持久力・集中力は往年の冴えを欠いた。

昭和までは、名人とはいえ、大体はこんな具合だった。

 

今日、トッププロの主流は20代であり、

10代の追い上げも急である。

30代になった井山最強にも迫る。

AI出現による回天の時期にあって

まずは研究・勉強の質と量が求められる。

高性能GPU搭載マシンを買って家に置き、

勉強会にノートパソコンを持っていき、

対局後にリモートで囲碁AIを開いて検証する、

といった使い方まで現われた。

<上野愛咲美(19)のインタビュー記事より>

 

もう一つは体力。集中力の持続である。

二日掛かりの大きなタイトル戦ともなると

終盤の難所を迎えるのは2日目の深夜であり、

秒読みのなかで目まぐるしく局面が揺れ動く。

緊迫した状況で、ポカが出るか、出ないか。

勝負を左右するのはヨミの深さや正確さだが

このあたりが紙一重、それが若さなのである。

 

いずれにしても過去の経験よりも

最新の研究がモノを言う時代である。

 

         ◇

 

古い中国のことわざに、

終わりこそが難しいという教訓がある。

 狐は川を渡る時、始めは尻尾をピンと立てる。

 水に濡らさないように注意深いのだが、

 だんだん疲れてきて、ついに水に落とし、

 びしょ濡れになってしまった――。

キツネが大きな川を無事渡り切るためには

押し寄せる疲労に打ち克たねばならぬ

一局の碁は長く、最後まで緊張を緩めていけない。

相撲の土俵際におけるダメ押しが必要なのである。

 

これはアマの碁にもあてはまる。

良く終わることは少なし、という言葉もある。

勢い込んで戦い始めたとしても、

最後は尻つぼみでウヤムヤに終わることが多い。

実力を出し切れるのも、せいぜい2局まで。

楽しめるのも同じくであるから、

わたしは同じ相手と2局以上打つのは好まない。

連勝しても連敗しても、具合がよろしくない。

3局目ともなると、どうしたって雑になる。

しかし、一方で「付き合い」「親睦」もある。

ここが趣味と商売の違いといえなくもない。

尻尾が濡れても、ご愛敬であるか。

これがよいかどうかはビミョーではあるが……。

 

 

 

 



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