今年の桜花賞では、若い松山騎手とのコンビでデアリングタクトが勝ちました。また、北村友一騎手とのコンビで2歳女王となったレシステンシアは、トライアルの負けで桜花賞では武豊騎手にスイッチしました。
騎手の世界では実力、結果が全て。乗り替わりは付き物です。そんな中でも騎手と馬との「コンビ」によって生まれるドラマもあります。
[石山繁とサイコーキララ]
父リンドシェーバー 母サイコーロマン(母の父モーニングフローリック)
栗東・浜田光正厩舎 牝 黒鹿毛
父のリンドシェーバーはアメリカ生まれの外国産馬として日本で走り、朝日杯など6戦4勝のスピード馬でした。母サイコーロマンは浜田厩舎の出身で、キララは浜田厩舎ゆかりの血統といえます。
3歳12月の新馬戦(阪神芝1200m)で手綱をとったのは、浜田厩舎所属の石山繁騎手でした。レースでは1番人気に応え、後続を7馬身ちぎって圧勝を飾りました。
続く2戦目の紅梅S(京都芝1400m)は、4番人気という評価をあざ笑うかのように快勝。サンデーサイレンス産駒のチアズグレイス、良血馬サマーベイブ、重賞勝ちのアルーリングアクトらを完封しました。
一躍牝馬路線で注目の存在となったサイコーキララは、エルフィンS(京都芝1600m)に駒を進めます。スピード馬を多く輩出しているリンドシェーバー産駒ということもあり、桜花賞へ向けては距離だけが課題と思われましたが、阪神3歳牝馬S(現阪神JF)4着のチアズグレイスを破り、マイルでも問題ないことを示しました。
桜花賞を目指し、石山繁&サイコーキララのコンビはトライアルに向かいます。
[石山繁とファレノプシス]
その2年前、石山騎手には苦い経験がありました。
同じ浜田厩舎所属で、サイコーキララと同じように、デビューから3連勝でエルフィンSを勝ったファレノプシスです。
桜花賞の前哨戦となったチューリップ賞では、出遅れ、位置取りを悪くして後方となり、4着に敗れてしまいます。
これが騎乗ミスと判断され、桜花賞は武豊騎手に乗り替わり。ファレノプシスは桜花賞を勝ち、G1ホースに。
その後、石山騎手に手綱が戻ってくることはありませんでした。
桜花賞はおろか、重賞すら勝ったことのない若手の石山騎手にとっては、桜花賞を前にして負けられないレース。
4連勝をかけて、サイコーキララは4歳牝馬特別(現フィリーズレビュー)に出走します。
好スタートからいいポジションに付け、強気のスパートで早め先頭。シルクプリマドンナらを振り切っての快勝でした。
この時の石山騎手の勝利インタビューで、桜花賞への意気込みを聞かれたところで「キララと一緒に」と語っていたのがとても印象深いです。
サイコーキララと石山騎手は、桜花賞への切符を手に入れたのでした。
[勝負の世界]
「サイコーキララと石山繁を勝たせたい」
と、どれだけの競馬ファンが思っていたのでしょう。当時筆者は若かったので、ベテランファンの方々がどのような空気だったか分かりませんが、単勝1.8倍という支持は多くのファンの期待が詰まったものだったのではないでしょうか。
紅梅S、エルフィンS、でサイコーキララに完敗していたチアズグレイスは、道悪のチューリップ賞で惨敗し、人気を落としていました。
ここでは一転して先行策を取り、見事に桜花賞制覇。サイコーキララはいつもより少し後ろからのレースになり、直線では伸びきれず4着に敗れました。
オークスでは桜花賞3着のシルクプリマドンナが逆転し、チアズグレイスが2着。山内厩舎所属馬によるワンツーフィニッシュとなりました。
サイコーキララは距離不安も囁かれる中人気を落とし、結果も6着と完敗。結局、石山騎手とサイコーキララのG1勝ちの夢は叶うことなく散ってしまいます。
競馬の世界、勝負の世界は本当に厳しい。そのことを痛感した2000年の3歳牝馬路線。
ですがそれだけに、叶えられた夢に感動することができるのもまた事実です。
G1勝ちのない馬を「名馬」とするのはどうなの?という見方もあるとは思いますが、競馬にはそれぞれのドラマがある、ということも注目してもらえればと思い、この記事を書きました。
サイコーキララと石山繁騎手のコンビは、これからもずっと私の心に残っていきます。