石巻の缶詰メーカー、どん底からの超復活劇
高井 尚之:経済ジャーナリスト、経営コンサルタント
金華さばの缶詰(写真:木の屋石巻水産)
「マツコの知らない世界」(TBSテレビ系列)というトークバラエティ番組がある。7年半にわたり放送されており、マツコ・デラックスさんの本音トークも人気だ。この番組で紹介された商品は、放送日以降に急激に売り上げを伸ばすことでも知られる。
2017年12月5日に放送された同番組のテーマは「サバの缶詰」だった。現在、サバ缶の人気は高く、生産量1位のツナ缶に迫る勢いだ。その理由は味に加えて、「DHA」や「EPA」「カルシウム」などが豊富に含まれており、美容効果への期待感もある。
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マツコが絶賛した「金華さば」缶詰
番組では多くのサバ缶が紹介された。苦手と公言していたマツコさんも「私のサバ缶情報、古すぎたわ。おいしくなったのね」と話していたが、そのトリを飾ったのが木の屋石巻水産(宮城県石巻市)の「金華さば」(味噌煮)だ。1缶500円と缶詰にしては安くないが、「これはおいしいです。さわやかな感じの味噌ね。どちらかというと日本酒でこれだけでいきたいぐらいおいしい。ものすごく上品な(味)」とマツコさんをうならせた。
「番組でマツコさんが紹介してくださってから、ネット注文が殺到し、次の日には当社のPCサーバーが一時ダウンしたほど。結局、1年分の在庫の3分の2が売れました」
木の屋ホールディングス(木の屋HD/木の屋石巻水産の持ち株会社)の木村長努社長は笑顔を浮かべるが、すぐにこう続ける。
「ただし、宮城県の三陸沖の天然サバが水揚げされたときだけの加工食品で、次々に製造できません。年間で150万缶が限度で、今シーズンは120万缶になる見通しです」
以前から商品力に定評があった会社だが、近年は一段と人気が高まっている。
1957年に木村氏の父・實氏(故人)が創業した木の屋石巻水産は、当時の日本人の貴重なタンパク源だった鯨などを取り扱い、事業が成長した。現在は石巻港に水揚げされたサバやサンマやイワシなどの魚介類を、その日のうちに缶詰に加工する「フレッシュパック製法」で知られる。魚の特徴に合わせて水煮、醤油煮、味噌煮などに味付けする。看板商品が前述の「金華さば」で、ロングセラー商品に「鯨の大和煮」缶がある。
同社の冷蔵工場は「石巻市魚町1丁目」。目の前に石巻湾が広がる場所にある。この地の利があるので、脂がのった魚介類をその場で缶詰にできるのだ。「手前みそですが、お客さんからは『こんな缶詰、食べたことがない』と言われます。刺身で食べられる魚を缶詰にして、うま味と栄養を閉じ込めているからです。社員全員が品質に自信を持って販売できるのも当社の強みです」(木村氏)
経営を父から受け継いだ木村氏は、弟の隆之氏(同HD副社長)と二人三脚で企業規模を拡大させた。2016年10月に甥の優哉氏(隆之氏の次男)に事業会社の社長を譲っている。同社は東日本大震災で甚大な被害を受けたが、後述するさまざまな仕掛けで事業を立て直した。2017年9月期の売上高は約19億円で、東日本大震災前の売上高(約15億円)を大幅に超えた。今期も順調に推移している。