客が半額より「2個買えば1個無料」を好む理由客が半額より「2個買えば1個無料」を好む理由シンガポールのショッピングモールは、いつも「Sale」の文字が躍り、熱気であふれている。日本人も、客がもっと買いたくなる売り方ができるはずだ(筆者撮影)
日本では買い物の際、購入を促すために「30%オフ」といった感じで値引きすることがよくあります。シンガポールはというと、ただの値引きよりも、「1FOR1」(ワンフォーワン)を行っているケースがよくあります。これは、少しでも売り上げを上げ、より多くの顧客を獲得するための戦略なのです。
「1FOR1」は店側のメリットも大きい
では、「1FOR1」はどういった仕組みなのでしょうか。これは、1人分の料金を払うと、もう1人分が無料になるというものです(もちろん、世界でシンガポールだけがやっているわけではありませんが明らかに日本よりは頻繁です)。たとえば、1人1000円のランチに2人で行くと、2人で1000円になります。割り勘をすれば500円ずつで済むので、消費者にとっては半額と同じ感覚です。
ほかにも、「3つまとめて買ったら、割引率がさらに高くなる」といったプロモーションをよく見掛けますが、これも「1FOR1」の一種で、客単価を少しでも上げようという戦略です。半額にした後のファイナルセールは1つなら50%オフでも、3つ買ってくれるなら60%オフを期間限定で行うといった感じです。確かに60%オフになるなら、「もう少し買おうかな」という心理も働きます。
「1FOR1」を実施するお店側のメリット「その1」は、客単価を維持できることです。単純に半額にしてしまうと客単価は500円ですが、「1FOR1」なら客単価1000円をキープできます。しかし、儲け的には「半額にするのと変わらないのでは」と思うでしょう。実は、そのカラクリがメリットその2につながります。
メリット「その2」は、お店側が広告宣伝をしなくても、お客が労力を払ってお客をもう1人連れて来てくれることです。シンガポールでは、「Aホテルの中華ランチで1FOR1やっているから行こう」「ハッピーアワーはお酒が1FOR1だから、早く仕事を切り上げて行こう」「バッグが1FOR1だから一緒に買おう」といった形で気軽に誘われる場面がよくあります。普段からよく1人で行っている店で「1FOR1」をやっていたら、誰だってもう1人を連れて行きたくなるものです。連れてこられた人がお店のサービスを気に入れば、さらに違う友達や知人を連れてくる可能性が格段に高まります。
「1FOR1」のコストは、いわば広告宣伝費ですが、単に一時的に広告宣伝するよりも、効果はずっと持続しやすいといえるでしょう。
クレジットカードを持っていると、「今月の1FOR1のご案内」といったリストがメルマガで送られてくることがよくあります。特に予定がなくても有名店やおいしそうなレストランがキャンペーンをやっていると、家族で出掛けようという気になるものです。「1FOR1」を行うと来店率が高くなるので、マーケティング的にも非常に有効なのです。
お店は売りたいものが売れて、コストも下げられる
メリット「その3」は、お店にとって都合のいいメニューが提供できることです。「今月の1FOR1」では、旬の食材を使ったメニューが挙げられていることがよくあります。
これは裏を返せば、旬の食材を安くたくさん仕入れられるということです。「1FOR1」に該当するメニューに注文が集中することがあらかじめわかるので、たくさん仕入れて原価を下げることができるのです。そうすることで食材ロスも減らすことができます。
マスメディアが日本ほど発達していないシンガポールでは、紹介制度(リファーラル)が活用されることがよくあります。お客が連れてきた友人が商品やサービスを購入すると、紹介者に商品券やサービスなどのお礼があるのが一般的なのです。顧客獲得コストをCMやPRなどでマスマーケティングにかけるのではなく、新規顧客や紹介者に還元する仕組みです。
もちろん日本でも「友達紹介キャンペーン」はごく一般的にあります。しかし、シンガポールではエステなどの美容サービスだけでなく、子どもの習い事など広範囲にわたるのと、紹介者へのお礼や新規の顧客に対するさまざまな優待が手厚いのが特徴です。