お弁当はその家の様子が垣間見えることもあるので、なるべくなら、あまり他人にジロジロ見られず食べていたい。
皆でワイワイ言いながらお弁当を食べている女性グループを見たりすると羨ましいのです。
「俺の弁当なんか、ご飯にイシイのハンバーグが3つだけ。だからバーグマンと呼ばれていたんだ」
その友人は誇らしげに語っていた。
「そんな自虐ネタを人に語れるのだから、こいつは強いやつだなぁ」
そう思って笑いながら聞いていた。
ある日の昼休み、たまたま隣のクラスを通りすぎると、何やら騒がしい。
「こいつの弁当、ハンバーグが3つだけだ!」
「見ろ、見ろ! ハハハ、」
「わっ、スゲー」
クラスを覗くと“バーグマン”が弁当を抱えて逃げていた。
口には、かっこんだと思われるハンバーグとご飯が、溢れんばかりに詰め込まれていた。
「やめろよ! やめろよ!」
ご飯とハンバーグに邪魔された、声にならない声をだし、“バーグマン”は嘲て追いかける敵から逃げ惑っていた。
明らかに弁当を隠しながら逃げていた。
逃げる途上、一瞬、自分と目が合った。
“バーグマン”は逃げるように方向を変えて、ひたすらご飯とハンバーグを口に詰め込んでいる。
ハンバーグだけの弁当と傷ついた心で、彼はどんな大人になるんだろう。
地方勤務で出席できなかった同窓会の日、友人を介して携帯で、“バーグマン”と何十年ぶりで言葉をかわした。
「おっ、元気、どこに住んでるの」
当時をイメージできない声にとまどったが、名前を聞けば、間違いなく“バーグマン”だった。
“バーグマン”に聞いてみた。
「何やってんの」
「医者だよ」
弁当抱えて逃げているバーグマンと、勉強しているバーグマンが頭のなかでイメージを、全速力で織り成した。
よく頑張ったな、バーグマン。
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