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二十一時の渋谷で キネマトグラフィカ / 古内一絵

2024年10月25日 | 読んだ小説
                    


今年中に映像配信会社に買収される事が決まっている老舗映画会社に勤める人達やOBらを、各章ごとに
視点の主人公を変えて描く群像劇。

社内のみんなが今後の事に疑心暗鬼になっている中、早期退職のリストラが行われようとしているが、
そんな中で会社名が消える前に自分の納得のいくやりたい仕事を残そうとする主人公の女性チーム長。
上役や周りの様子を伺いながら常に自分の楽な方へと行こうとする一見ダメ上司だが、なかなか曲者な
男性グループ長。 会社に残れるのか去るのか、恋人と結婚したいのかしたくないのか気持ちの定まらな
い主人公の部下で契約社員のゆとり女性。 まだ会社に勢いのあった90年代には華々しく活躍したが、
今の家族関係に疑問を持つ、今回の主人公の企画に協力する女性OB達。 主人公に嫉妬し妨害しようと
する組織の中の正義を自負する社内警察で、独創力には欠けるが会社の求める仕事をするという意味では
優秀な他部署の女性チーム長。 これらの視点で各章が描かれていく。

会社や仕事に対して人それぞれに思いがあるだろうし、仕事は真面目に一生懸命にやった方がいいのだろ
うけど、それが自分や周りの同僚らにとって必ずしも良い事にはならない場合もある。 だから、主人公
も最後に言っていたけど、働き方、生き方に正解も不正解もないし、自分の仕事内容に納得するか、自分
の社内でのポジションに執着するかも人それぞれだ。

私も自身の会社勤めでいろいろ見てきたけど、社内で昇進していく人は、実際に仕事ができる人より、
上司に上手く取り入って可愛がられる人が多かった。 だから、そんな人が自分達の部署の上司になった
ら、その人が役職の仕事も十分にできないし、部署をまとめる力もないから職場が混乱して大変だった。 
何かいろいろ昔のそんな事を思い出したりした。

最後は情熱を持って仕事をやり通した主人公が自ら会社を去っていくが、宇宙的規模の時間で考えたら
ほんの一瞬でも仲間らと貴重な時を共に経験できた事を胸に、これから先の不安もあるけど強い思いで
新たな未来に歩みを進めようとする主人公に清々しさを感じてなかなか良い作品だった。


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