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主人公の女性は、生まれてからずっと母子家庭で育ち、母親が家で男の客を取っている間は、雨が降ろう
が雪が降ろうが、ずっと外に出され、ある時は、お金を盗んでなんかいないのに母親から信じてもらえず
激しく叱られ、近所の子達からは、泥棒とずっとイジメ続けられ、人と接する事を避ける暗い無口な少女
になっていた。 更に小学4年生の時に母親の愛人に弄ばれ、大人に対する不信感を思っていたが、そん
な彼女が、信仰心の篤い優しい叔母の深い愛情や、一人の心正しい少年との出会いによって暗く沈んだ心
が光に照らされていく。
しかし、それにしても叔母の死は早過ぎる。 よく神仏のような清らかで尊い心根の人は、この世での修
行を早く終える事ができて神様の身下に呼び戻されるとか聞いた事があるが、もっと叔母の、その深い愛
情で主人公の少女を包み守って導いてあげてほしかった。 そして、少年の方は、主人公の中の嫌な醜い
部分を知ってショックを受けて一時期主人公から離れてしまったが、主人公には決して人には言えない暗
く悲しい事情があったのだし、自分のご立派な正義感だけを振りかざしてもなぁと思う。 自分を傷つけ
た人、自分に酷い事をした人の事を憎む気持ちを無理に抑え込まなくていい。 自分をイジメ続けた近所
の子や、自分の体を弄んだ母親の愛人を憎み許せないのは当然で何ら後悔する事も恥じる事もない。
やがて主人公も信仰に目覚め、本作は23歳の時に洗礼を受けるために教会の牧師に示した信仰告白の文章
を辿りながら描かれた物語だが、ずっと自分の辛かった人生を思うばかりで、母を蔑み、母の辛かったで
あろう人生を思いやる事などできなかった自分に洗礼を受ける資格なんかあるのだろうかと悩むくらいの
真面目な人物で、不遇な生い立ちから来る人に対する妬みや恨みを持ってしまうのはしょうがない事で、
それが人間だと思うし、それでも自分自身を見つめ正しく生きようとする姿には感動を覚える。
私がこの物語を読んで思ったのは、自分を(人を)傷つけるのは、誰かの悪意であり自分自身でもあり、
自分を(人を)救うのも、誰かの愛情であり自分自身でもあるという事か。