1980年代の後半のこと、カルフォルニア州Mountain ViewにあったNASAに数日間通った経験がある。
そこはSan JoseからSan Franciscoに向けてHwy101を北上すると、シリコンバレーの中心地Palo Altoの手前の左手側の巨大なかまぼこ型をした施設Amesがランドマークとなっていた。米国でも唯一、飛行機一台そっくりそのまま風洞実験可能な施設であった。
当時NASAのプロジェクトの1つで月面活動用の新しいヘルメットを開発していて、私の会社もその開発プロジェクトに参加し、高精細3Dモニターの提供がミッションだった。強力な紫外線から目を守るため、左右2つのカメラ映像をモニター越しに見るというものだ。
デバイスを納入後しばらくして、モックアップが完成したため、それを見ながら打ち合わせがしたい旨の連絡が入った。
別件もあり出張が決まった時には胸が高鳴った。宇宙に興味を持った時から憧れの存在であったNASAに行ける。
高いパームツリーに囲まれた閑静なオフィスビルに到着。入関許可パスポートを胸につけ、室内に通されてみると、そこはオフィスというよりも大学の研究室のような雰囲気で、様々な実験装置が所狭しと並んでいた。
担当者からヘルメットを手渡され、実際に装着してみると、当時はまだ白黒モニターだったがしっかりと立体映像が見え、これを月で宇宙飛行士が使う姿を想像した。
まだ幾つか課題もあり、スケジュールとアクションプランに関しその日の打ち合わせを終えた。翌日も同様に打ち合わせを済ませると、研究スタッフが他の開発中の技術を披露してくれた。
面白いマン-マシンインターフェースが主で、今でいえば3Dスキャン技術のような宇宙服に着けたセンサーをカメラで読み取りコンピュータで処理するようなものもあり、MITのメディアラボが全盛期の頃にNASAでも似たような技術が開発途上であった。
仕事を終え、帰り際にNASAの売店に案内してもらい、宇宙食をはじめ大量のノベルティを買って帰ったことを覚えている。
自分の中で記憶に残る思い出だが、心残りはこのヘルメットが宇宙に出ることはなかったことである。