※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■
Ep7をほどく(3)・まずEp7を紗音説で読む(中)
筆者-初出●Townmemory -(2010/09/12(Sun) 17:51:55)
http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=52052&no=0 (ミラー)
[Ep7当時に執筆されました]
※番号順に読まれる想定で書かれています。できれば順番にお読み下さい。
Ep7をほどく(1)・「さいごから二番目の真実」
Ep7をほどく(2)・まずEp7を紗音説で読む(上)
☆
「力わざを使って、Ep7を朱志香犯人説でむりやり読み解く」というシリーズの3ページめです。
が、その前に、段取りとして「紗音説」を検討している途中です。
わりあい一生懸命書いていますが、「べつに、紗音説に賛同しているわけじゃない」ということだけ、ふまえておいて下さい。
あとから全部朱志香説でひっくりかえすつもりで書いているものですから、全部が「前フリ」だと思って下さい。
●右代宮戦人との交流
少しはしょります。
紗音は、熊沢の影響でミステリー読みになります。
同じ趣味をもつ右代宮戦人と仲良くなって、彼に恋をします。
そして幼い将来の約束をするわけです。
「使用人をやめるときがあったら、俺のところに来いよ」
「では、1年後に……」
「白馬に乗って迎えに来てやるぜ」
紗音は、12歳当時の戦人(!)のその適当なセリフを、思いっきり真に受けます。
が、留弗夫一家にごたごたがあって、戦人は翌年来ない。
次の年も来ない。
その次も来ない。
紗音はついに、待ち続けることがつらすぎて耐えられなくなります。
ほんとは待ち続けたい。でも辛すぎて耐えられない。
その2つを同時に叶える方法がありました。
自分の分身である魔女ベアトリーチェ。
ベアトリーチェに、戦人のことをいつまでも待ち続けさせる。
自分は、戦人への思いを整理して、身軽になる。
ベアトリーチェは紗音なのですから、彼女は戦人のことを約束通り待ち続けることもでき、同時に重荷から解放されることもできる。
Ep6の「お母様のリグレット」……もう戦人を愛しつづけることができないから、この恋心をあなたにあげます、あなたが戦人を愛し続けなさい、という、あのメッセージに響き合いますね。
そして紗音はひさしぶりに新たなキャラクターを作ります。心の弱った自分を支える存在として、弟分の嘉音という幻想キャラクターを創造します。
●黄金発見
翌年、紗音は碑文の謎をといて、黄金の間を発見します。
金蔵と面会し、黄金の指輪を受け取り、紗音は秘密裏に右代宮当主になります。
源次・南條・熊沢の忠誠を手に入れたっぽいです。
ついでに、10トンの金塊と、六軒島破壊爆弾を入手します。
やろうと思ったら何でも出来る人になりました。文字通り全知全能の魔女みたいなものです。
お金で買えないものがある、なんて常套句を真顔でいうのは、「あなたの心を、大金を出してでも買いたい」と誰かに言われたことのない人のただの負け惜しみです。
たぶんこのへんの年から、紗音は譲治との仲を深めていったわけなのでしょう。
来年迎えに来るといったきり、4年も(最終的には6年目まで)迎えに来ないという、おそろしいムラっ気を発揮する戦人に比べて、
譲治は精神的に安定しているし、義理堅いし、たぶん約束は破らないし、マメに「あなたがスキですよー、いつでも気に掛けていますよー」というサインを送ってくれるでしょうから、紗音はさぞかし安心できたことでしょう。癒し系です。もうこれ癒し。
で、その2年後に、紗音は右代宮関係者の全員を殺害して爆弾でドカーンするわけなのです。
●動機
「犯人」のアバターであるクレルは、動機についていくつかほのめかしを言い、
「これだけ言ってわからないのなら、もう黙る」
というような、つきはなしたことを言います。
彼女が言ったいくつかのことを、メモから抜き出してみます。
・家具の決闘はした。決着はつきかけていた。(しかし、結局、つかなかった?)
・1986年という年が、あまりにも無慈悲だった。1986年であることが、恨めしい。
・あと1年早ければ、あるいは遅ければ、決闘の勝敗はついた。
・時間さえ与えられれば。あるいは悩む時間さえ与えられなかったなら。
以上のような事情があった結果、皆殺しでドカーンしちゃったのです、これが事件の動機ですこれでわからないのならもう語りません、とクレルはおっしゃる。
さて、今、ここでは仮に、「クレルの中身は紗音」ということにしたいわけです。
ですから、紗音さんには、
「ああ、どうして、どうして1986年だったの?」
と思っていて欲しい。
●1986年特有のイベントとは
1986年に起こることといえば。
Ep2で譲治は、「次の親族会議に、婚約指輪を作って持っていく」と、事前に予告しています。
譲治が紗音に、指輪を渡して正式にプロポーズするのは、皆さんご存じのとおり、いつも必ず1986年10月4日の夜です。
つまり紗音は、1986年の親族会議で譲治からプロポーズされることを、前もって知っていました。
で、同時に1986年は、戦人が6年ぶりに島に来てしまう年です。
もちろん紗音は、久しぶりに戦人が島にやってくることを、前もって知ります。だって彼女は使用人で、いわばいとこチームの接待係みたいなものですからね。
譲治からのプロポーズを受ける日に、戦人がやってくる。
どうしよう。
「家具の決闘」とは、魂が一つにみたない者たちが、一なる魂を得るための手続きだ、というようなことが説明されました。
紗音はひとりの人間で、ひとつの魂を持っています。
が、彼女の中にはベアトリーチェというキャラクターがいて、戦人にこがれており、また同時に嘉音というキャラもいて、朱志香とすれちがいの恋をしています。
つまり紗音は、魂を3分割して、三分の一は譲治を、三分の一は戦人を、三分の一は朱志香を恋している、魂が一に満たない家具なのです。
が、さまざまな水面下交渉の結果、「わたしは譲治さんのプロポーズを受けるんだ」ということに、ほとんど決定していたのでしょう。それが「決着はつきかけていた」。
ところが、そこに戦人がやって来てしまう。昔すごく好きだった、何年も一途に待った、今でもかなりひきずっている、戦人さん。
心の天秤がガッタンガッタン、左に右に、激しく揺れる。
戦人さんが帰ってくるのが、来年の1987年だったらよかったのに。
それなら自分は、もう譲治さんと婚約して、後戻りできない状態になっているのだから。
戦人さんが帰ってくるのが、去年の1985年だったらよかったのに。
それなら自分は、1年間ゆっくり考えて、「わたしが本当に愛しているのは、譲治さんなのだろうか、戦人さんなのだろうか」ということを、決めることができたのに。
けれどもそれは無慈悲にも、1986年でした。
選べません。
だから、彼女は六軒島を密室にして、中にいる全員を殺すのです。
●魔女のルーレット
「金蔵がそうしたように、ルーレットを回して、奇跡の目が出るのを期待しよう」
そんな意味のことを、クレルは語ります。
金蔵は、「碑文の謎を出題し、解けた人物に全部を相続させよう」というルーレットを回しました。そして奇跡が起こり、もっとも愛する九羽鳥庵ベアトの忘れ形見が、当たりくじを引き当てたのです。
この部分に、3つの条件が書かれています。
「クレルのルーレット」を回転させた場合、大きくわけて3通りの結果が出るというのです。
「クレル=紗音」の仮定に立って、以下のように解釈することにします。
■1.「誰かが、報われるかもしれない」
魔女殺人のルールはだいたいこうでした。
・島の外には出られない。外との連絡もつかない。
・碑文の見立てに沿って、在島者が順繰りに殺害されていく。
・誰かが碑文を解読して黄金の間を発見した場合、その時点で殺人は停止する。
・6日零時までに解読者が現われない場合、爆弾で右代宮邸は消滅する。
「誰かが、報われるかもしれない」に関わってくるのは、「碑文が解かれたら殺人は止まる」の条件ではないか、と考えました。
そう簡単には解けない碑文。解けること自体が奇跡に近い。
もしゲーム中に解読成功したとしても、その時点で、かなりの人間が死んでいる見込みです。
でも、解読されたってことは、誰かが生き残ってるということ。
誰が生き残るか、というルーレット。譲治か戦人か朱志香か。紗音は、生き残った誰かと結ばれれば良い。
「私は、私たちは、……自分たちの運命さえ決められなくて。全てを運命に託したのです。」
誰が恋を成就し、誰が生き残るのか。それ自体を乱数で選ぶという選択。
■2.「誰かがこの愚行を、止めてくれるかもしれない」
碑文が解読されなかった場合、殺人が続きます。
が、在島者のなかに、紗音の想像以上に頭の良い人物がいて。
「連続殺人犯は、紗音である」
と見抜いて告発した場合。
自分でも馬鹿げたこととわかっているこのルーレットギャンブル。紗音は、誰かがこれを止めてくれることを期待しています。
■3.「あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない」
これが、六軒島殺人事件の最大のギミックで、このために六軒島破壊爆弾が必要なのです。
探偵ウィルは、こんなことをつぶやいています。
わたしの「チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷」という記事をよまれた方は、この時点でおわかりかと思います。それです。
Ep6のティーパーティ。
絵に描いたような幸福がえがかれました。
戦人は雛ベアトと結ばれ。
嘉音は朱志香と結ばれ。
譲治は紗音と結ばれ。
これってまさに、「あるいは全員が結ばれて」の世界です。全ての恋が成就しています。これが黄金郷です。全員が黄金郷に招かれました。
この状態をつくることが、紗音の本命の目的で、そのための道具が900トンの爆薬です。
時計の針が6日深夜零時をさした時点で、900トンが爆発し、全員が死にます。
基本的に、死体も残りません。
もちろん、犯行現場も残りません。
これにより、1986年10月4日~5日の六軒島は、「シュレディンガーの猫箱」となるわけです。
爆発以外の何があったのかは、外からは誰にもわからない。
この2日間で、紗音は総勢十何名という大量殺人を敢行しています。
けれども、死体はないし、犯行の痕跡もないし、犯行現場もない。
ということは、
「殺人事件はあったかもしれないし、なかったかもしれない」
猫は死んだかもしれないし、死んでないかもしれない。
殺人事件はあったのです。けれど、猫箱になりましたから、
「あったかもしれないし、なかったかもしれない」
という状態になりました。
紗音が殺しましたから、譲治も戦人も朱志香も死んだのです。
けれど、証拠も死体も証人もないのですから、
「彼らは、死んだかもしれないし、生きてるかもしれない」
紗音が殺したのです。
でも、紗音が殺したことによって、「彼らは生きてるかもしれない」という可能性が発生するのです。このパラドックス。
この「生きてるかもしれない可能性」を発生させるためには、島内の人々を、ひとり残らず殺さなければなりません。
なぜなら、生きている人間は、島内に起こっていることを「観測」するからです。
箱の中身を「観測」したら、猫が死んでいるか生きているかは、どっちか片方に確定してしまいます。
生きている人間は、「譲治と戦人と朱志香は殺されてしまった!」と「観測する」のです。殺されたことが観測されてしまえば、「彼らは殺された」つまり「生きていない」ことになってしまうのです。
だから、絶対に観測させてはならない。
絶対に観測できなくすればいい。
つまり、殺せばいい。
死んだ人間は、絶対に周囲を観測しません。だから、「みんな死んでしまった」という観測事実が発生しません。だから「生きてるかもしれない」ことになります。
死んだ人間は、「自分はいま、死んでいる」などという観測をしません。ですから、「死んでしまった」という観測事実が発生しないので、死んだその人物は「生きてるかもしれない」ことになります。ああ、黄金郷ではすべての死者を蘇らせ。
そして。
シュレディンガーの観測不可能な猫箱は、生死以外にも、あらゆる可能性を内包します。
箱の中は、どうなっているかいっさいわからないのです。
いっさいわからないということは、
「すべての可能性」
が、そこに入っているということなのです。
検証不可能な場所には、あらゆる主張が可能です。
真里亞の目をとざしてしまえば、カップの中に飴玉が現われたのは魔法のためだという主張が可能です。
真里亞に見えないということは、真里亞にとっては観測不可能の猫箱なのですから、「そこで起こったことは本物の魔法である可能性がある」のです。
鐘音の背後で起こったことは、鐘音には「観測不能なこと」なのですから、それは猫箱の中で起こったことです。
ヤスのいたずらの可能性もあるし、赤い魔女のしわざである可能性もあるし、それ以外の可能性もあります。鐘音の背後には、そうした無限の可能性が、いっぱいつまっているのです。
さて、観測不可能な2日間の六軒島。
猫箱です。
無限の可能性が、無限に詰まっています。
その中には、
「紗音が、譲治とむすばれた可能性」と、
「紗音が、戦人とむすばれた可能性」と、
「紗音の中の嘉音が、朱志香とむすばれた可能性」が、
その3つが、同時に含まれているのです。
そして、その3つの可能性は、「どれかひとつを選んで残りを捨てる必要なんてない」のです。
なんと、紗音は、六軒島を爆破することにより、譲治と戦人と朱志香を、3人とも、同時に手に入れることができました。
ある場所を観測不能の状態におくことで、その内部に、「無限」の可能性をつめこむことができる。
そこでは、相反する願望を、全部同時に手に入れることができる。
一匹の猫を入れてフタを閉じたら、生きた猫と死んだ猫と、犬と猿とキジと、馬とキリンとゾウとライオンと、ペガサスとユニコーンとドラゴンとフェニックスを手に入れることができる。
このように。Ep6お茶会で描かれたように。
全員で黄金郷に行き、あらゆる理想的なハッピーエンドを同時に手に入れる。「全員を黄金郷にまねく」。
それが、「あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない」。
紗音はこの状態をつくろうとした。そのために殺人を敢行し、爆薬を起爆した。
そういう、奇怪な論理にもとづく動機を、わたしは想定しているのです。
(続く)
■続き→ Ep7をほどく(4)・まずEp7を紗音説で読む(下)
■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■
Ep7をほどく(3)・まずEp7を紗音説で読む(中)
筆者-初出●Townmemory -(2010/09/12(Sun) 17:51:55)
http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=52052&no=0 (ミラー)
[Ep7当時に執筆されました]
※番号順に読まれる想定で書かれています。できれば順番にお読み下さい。
Ep7をほどく(1)・「さいごから二番目の真実」
Ep7をほどく(2)・まずEp7を紗音説で読む(上)
☆
「力わざを使って、Ep7を朱志香犯人説でむりやり読み解く」というシリーズの3ページめです。
が、その前に、段取りとして「紗音説」を検討している途中です。
わりあい一生懸命書いていますが、「べつに、紗音説に賛同しているわけじゃない」ということだけ、ふまえておいて下さい。
あとから全部朱志香説でひっくりかえすつもりで書いているものですから、全部が「前フリ」だと思って下さい。
●右代宮戦人との交流
少しはしょります。
紗音は、熊沢の影響でミステリー読みになります。
同じ趣味をもつ右代宮戦人と仲良くなって、彼に恋をします。
そして幼い将来の約束をするわけです。
「使用人をやめるときがあったら、俺のところに来いよ」
「では、1年後に……」
「白馬に乗って迎えに来てやるぜ」
紗音は、12歳当時の戦人(!)のその適当なセリフを、思いっきり真に受けます。
が、留弗夫一家にごたごたがあって、戦人は翌年来ない。
次の年も来ない。
その次も来ない。
紗音はついに、待ち続けることがつらすぎて耐えられなくなります。
ほんとは待ち続けたい。でも辛すぎて耐えられない。
その2つを同時に叶える方法がありました。
自分の分身である魔女ベアトリーチェ。
ベアトリーチェに、戦人のことをいつまでも待ち続けさせる。
自分は、戦人への思いを整理して、身軽になる。
ベアトリーチェは紗音なのですから、彼女は戦人のことを約束通り待ち続けることもでき、同時に重荷から解放されることもできる。
Ep6の「お母様のリグレット」……もう戦人を愛しつづけることができないから、この恋心をあなたにあげます、あなたが戦人を愛し続けなさい、という、あのメッセージに響き合いますね。
そして紗音はひさしぶりに新たなキャラクターを作ります。心の弱った自分を支える存在として、弟分の嘉音という幻想キャラクターを創造します。
●黄金発見
翌年、紗音は碑文の謎をといて、黄金の間を発見します。
金蔵と面会し、黄金の指輪を受け取り、紗音は秘密裏に右代宮当主になります。
源次・南條・熊沢の忠誠を手に入れたっぽいです。
ついでに、10トンの金塊と、六軒島破壊爆弾を入手します。
やろうと思ったら何でも出来る人になりました。文字通り全知全能の魔女みたいなものです。
お金で買えないものがある、なんて常套句を真顔でいうのは、「あなたの心を、大金を出してでも買いたい」と誰かに言われたことのない人のただの負け惜しみです。
たぶんこのへんの年から、紗音は譲治との仲を深めていったわけなのでしょう。
来年迎えに来るといったきり、4年も(最終的には6年目まで)迎えに来ないという、おそろしいムラっ気を発揮する戦人に比べて、
譲治は精神的に安定しているし、義理堅いし、たぶん約束は破らないし、マメに「あなたがスキですよー、いつでも気に掛けていますよー」というサインを送ってくれるでしょうから、紗音はさぞかし安心できたことでしょう。癒し系です。もうこれ癒し。
で、その2年後に、紗音は右代宮関係者の全員を殺害して爆弾でドカーンするわけなのです。
●動機
「犯人」のアバターであるクレルは、動機についていくつかほのめかしを言い、
「これだけ言ってわからないのなら、もう黙る」
というような、つきはなしたことを言います。
彼女が言ったいくつかのことを、メモから抜き出してみます。
・家具の決闘はした。決着はつきかけていた。(しかし、結局、つかなかった?)
・1986年という年が、あまりにも無慈悲だった。1986年であることが、恨めしい。
・あと1年早ければ、あるいは遅ければ、決闘の勝敗はついた。
・時間さえ与えられれば。あるいは悩む時間さえ与えられなかったなら。
以上のような事情があった結果、皆殺しでドカーンしちゃったのです、これが事件の動機ですこれでわからないのならもう語りません、とクレルはおっしゃる。
さて、今、ここでは仮に、「クレルの中身は紗音」ということにしたいわけです。
ですから、紗音さんには、
「ああ、どうして、どうして1986年だったの?」
と思っていて欲しい。
●1986年特有のイベントとは
1986年に起こることといえば。
Ep2で譲治は、「次の親族会議に、婚約指輪を作って持っていく」と、事前に予告しています。
譲治が紗音に、指輪を渡して正式にプロポーズするのは、皆さんご存じのとおり、いつも必ず1986年10月4日の夜です。
つまり紗音は、1986年の親族会議で譲治からプロポーズされることを、前もって知っていました。
で、同時に1986年は、戦人が6年ぶりに島に来てしまう年です。
「しかし、1986年に戦人さんが帰ってくるという事実が変わらぬ限り。………何かの悲劇は起こったでしょう。」
「そうだな。……戦人が帰ってくるのが、一年早いか遅いかだったら。………事件は起こらなかったかもしれねェ。」
(Episode7)
もちろん紗音は、久しぶりに戦人が島にやってくることを、前もって知ります。だって彼女は使用人で、いわばいとこチームの接待係みたいなものですからね。
譲治からのプロポーズを受ける日に、戦人がやってくる。
どうしよう。
「家具の決闘」とは、魂が一つにみたない者たちが、一なる魂を得るための手続きだ、というようなことが説明されました。
紗音はひとりの人間で、ひとつの魂を持っています。
が、彼女の中にはベアトリーチェというキャラクターがいて、戦人にこがれており、また同時に嘉音というキャラもいて、朱志香とすれちがいの恋をしています。
つまり紗音は、魂を3分割して、三分の一は譲治を、三分の一は戦人を、三分の一は朱志香を恋している、魂が一に満たない家具なのです。
が、さまざまな水面下交渉の結果、「わたしは譲治さんのプロポーズを受けるんだ」ということに、ほとんど決定していたのでしょう。それが「決着はつきかけていた」。
ところが、そこに戦人がやって来てしまう。昔すごく好きだった、何年も一途に待った、今でもかなりひきずっている、戦人さん。
心の天秤がガッタンガッタン、左に右に、激しく揺れる。
戦人さんが帰ってくるのが、来年の1987年だったらよかったのに。
それなら自分は、もう譲治さんと婚約して、後戻りできない状態になっているのだから。
戦人さんが帰ってくるのが、去年の1985年だったらよかったのに。
それなら自分は、1年間ゆっくり考えて、「わたしが本当に愛しているのは、譲治さんなのだろうか、戦人さんなのだろうか」ということを、決めることができたのに。
けれどもそれは無慈悲にも、1986年でした。
選べません。
だから、彼女は六軒島を密室にして、中にいる全員を殺すのです。
●魔女のルーレット
「金蔵がそうしたように、ルーレットを回して、奇跡の目が出るのを期待しよう」
そんな意味のことを、クレルは語ります。
金蔵は、「碑文の謎を出題し、解けた人物に全部を相続させよう」というルーレットを回しました。そして奇跡が起こり、もっとも愛する九羽鳥庵ベアトの忘れ形見が、当たりくじを引き当てたのです。
ルーレットに、身を委ねたといった方が、正しいかもしれない。
私は、私たちは、……自分たちの運命さえ決められなくて。全てを運命に託したのです。
誰かが、報われるかもしれない。
あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない。
さもなくば誰かがこの愚行を、止めてくれるかもしれない。
(Episode7)
この部分に、3つの条件が書かれています。
「クレルのルーレット」を回転させた場合、大きくわけて3通りの結果が出るというのです。
「クレル=紗音」の仮定に立って、以下のように解釈することにします。
■1.「誰かが、報われるかもしれない」
魔女殺人のルールはだいたいこうでした。
・島の外には出られない。外との連絡もつかない。
・碑文の見立てに沿って、在島者が順繰りに殺害されていく。
・誰かが碑文を解読して黄金の間を発見した場合、その時点で殺人は停止する。
・6日零時までに解読者が現われない場合、爆弾で右代宮邸は消滅する。
「誰かが、報われるかもしれない」に関わってくるのは、「碑文が解かれたら殺人は止まる」の条件ではないか、と考えました。
そう簡単には解けない碑文。解けること自体が奇跡に近い。
もしゲーム中に解読成功したとしても、その時点で、かなりの人間が死んでいる見込みです。
でも、解読されたってことは、誰かが生き残ってるということ。
誰が生き残るか、というルーレット。譲治か戦人か朱志香か。紗音は、生き残った誰かと結ばれれば良い。
「私は、私たちは、……自分たちの運命さえ決められなくて。全てを運命に託したのです。」
誰が恋を成就し、誰が生き残るのか。それ自体を乱数で選ぶという選択。
■2.「誰かがこの愚行を、止めてくれるかもしれない」
碑文が解読されなかった場合、殺人が続きます。
が、在島者のなかに、紗音の想像以上に頭の良い人物がいて。
「連続殺人犯は、紗音である」
と見抜いて告発した場合。
自分でも馬鹿げたこととわかっているこのルーレットギャンブル。紗音は、誰かがこれを止めてくれることを期待しています。
■3.「あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない」
これが、六軒島殺人事件の最大のギミックで、このために六軒島破壊爆弾が必要なのです。
探偵ウィルは、こんなことをつぶやいています。
「そして、………全てを黄金郷に招き、……全ての恋を成就させる、もう一つのシステム。」
(Episode7)
わたしの「チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷」という記事をよまれた方は、この時点でおわかりかと思います。それです。
Ep6のティーパーティ。
絵に描いたような幸福がえがかれました。
戦人は雛ベアトと結ばれ。
嘉音は朱志香と結ばれ。
譲治は紗音と結ばれ。
これってまさに、「あるいは全員が結ばれて」の世界です。全ての恋が成就しています。これが黄金郷です。全員が黄金郷に招かれました。
この状態をつくることが、紗音の本命の目的で、そのための道具が900トンの爆薬です。
時計の針が6日深夜零時をさした時点で、900トンが爆発し、全員が死にます。
基本的に、死体も残りません。
もちろん、犯行現場も残りません。
これにより、1986年10月4日~5日の六軒島は、「シュレディンガーの猫箱」となるわけです。
爆発以外の何があったのかは、外からは誰にもわからない。
この2日間で、紗音は総勢十何名という大量殺人を敢行しています。
けれども、死体はないし、犯行の痕跡もないし、犯行現場もない。
ということは、
「殺人事件はあったかもしれないし、なかったかもしれない」
猫は死んだかもしれないし、死んでないかもしれない。
殺人事件はあったのです。けれど、猫箱になりましたから、
「あったかもしれないし、なかったかもしれない」
という状態になりました。
紗音が殺しましたから、譲治も戦人も朱志香も死んだのです。
けれど、証拠も死体も証人もないのですから、
「彼らは、死んだかもしれないし、生きてるかもしれない」
紗音が殺したのです。
でも、紗音が殺したことによって、「彼らは生きてるかもしれない」という可能性が発生するのです。このパラドックス。
この「生きてるかもしれない可能性」を発生させるためには、島内の人々を、ひとり残らず殺さなければなりません。
なぜなら、生きている人間は、島内に起こっていることを「観測」するからです。
箱の中身を「観測」したら、猫が死んでいるか生きているかは、どっちか片方に確定してしまいます。
生きている人間は、「譲治と戦人と朱志香は殺されてしまった!」と「観測する」のです。殺されたことが観測されてしまえば、「彼らは殺された」つまり「生きていない」ことになってしまうのです。
だから、絶対に観測させてはならない。
絶対に観測できなくすればいい。
つまり、殺せばいい。
死んだ人間は、絶対に周囲を観測しません。だから、「みんな死んでしまった」という観測事実が発生しません。だから「生きてるかもしれない」ことになります。
死んだ人間は、「自分はいま、死んでいる」などという観測をしません。ですから、「死んでしまった」という観測事実が発生しないので、死んだその人物は「生きてるかもしれない」ことになります。ああ、黄金郷ではすべての死者を蘇らせ。
そして。
シュレディンガーの観測不可能な猫箱は、生死以外にも、あらゆる可能性を内包します。
箱の中は、どうなっているかいっさいわからないのです。
いっさいわからないということは、
「すべての可能性」
が、そこに入っているということなのです。
検証不可能な場所には、あらゆる主張が可能です。
真里亞の目をとざしてしまえば、カップの中に飴玉が現われたのは魔法のためだという主張が可能です。
真里亞に見えないということは、真里亞にとっては観測不可能の猫箱なのですから、「そこで起こったことは本物の魔法である可能性がある」のです。
鐘音の背後で起こったことは、鐘音には「観測不能なこと」なのですから、それは猫箱の中で起こったことです。
ヤスのいたずらの可能性もあるし、赤い魔女のしわざである可能性もあるし、それ以外の可能性もあります。鐘音の背後には、そうした無限の可能性が、いっぱいつまっているのです。
さて、観測不可能な2日間の六軒島。
猫箱です。
無限の可能性が、無限に詰まっています。
その中には、
「紗音が、譲治とむすばれた可能性」と、
「紗音が、戦人とむすばれた可能性」と、
「紗音の中の嘉音が、朱志香とむすばれた可能性」が、
その3つが、同時に含まれているのです。
そして、その3つの可能性は、「どれかひとつを選んで残りを捨てる必要なんてない」のです。
なんと、紗音は、六軒島を爆破することにより、譲治と戦人と朱志香を、3人とも、同時に手に入れることができました。
ある場所を観測不能の状態におくことで、その内部に、「無限」の可能性をつめこむことができる。
そこでは、相反する願望を、全部同時に手に入れることができる。
一匹の猫を入れてフタを閉じたら、生きた猫と死んだ猫と、犬と猿とキジと、馬とキリンとゾウとライオンと、ペガサスとユニコーンとドラゴンとフェニックスを手に入れることができる。
このように。Ep6お茶会で描かれたように。
全員で黄金郷に行き、あらゆる理想的なハッピーエンドを同時に手に入れる。「全員を黄金郷にまねく」。
それが、「あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない」。
紗音はこの状態をつくろうとした。そのために殺人を敢行し、爆薬を起爆した。
そういう、奇怪な論理にもとづく動機を、わたしは想定しているのです。
(続く)
■続き→ Ep7をほどく(4)・まずEp7を紗音説で読む(下)
■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■
動機の件ですが、彼女は結局選べなかった、ということでしょうか。
永遠に保留にしておきたかった(せざるをえない状況に追い込まれた?)人生の進路が犯行の動機だと。
それはそれでかなり身勝手な動機だと思いますが、閉ざされた環境で育った10代の若者にとっては必死の動機だったんですかね(原作者様が「犯行の動機」は、他人には下らなくとも本人にとっては必然に思えるかもしれないとインタビューで語っていたことを思い出しました)。
にしても管理人様は「あなたの心を、大金を出してでも買いたい」と言われたことがあるのですか。うらやましいw
私は言われたこともないですが、「金では買えないものがある」というのは金の万能性を否定しているだけで、重要性まで否定している表現では無いのなら、いいと思うのですが。負け惜しみとまでおっしゃらなくとも。
それでは長文失礼いたしました。この後の考察も楽しみにしております!
すごく分かりやすい「模範回答」ですね。
自分は、ヤス=ベアトがシヤノカノの上位として儀式を強行するという立場をとっています。
ジェシカに関しては真バトラの役割つけたいものでw
ところで、6年前はバトラ12歳ならば、シャノンは15ではなく10(13)歳でないかと。
シャノンはそこまでショタというわけではない、のかな?
バトラの罪については、両者の台詞だけなら軽い会話なので、それを罪と言っているくらいには彼女は魔女ですが。
……ジョージは、社会的にはようやく高学年になったところの小学生にロックオン。
まさに魔王。
年齢まちがえてました!修正しました。ありがとうございます。
相変わらず考察のレベルが違いますね。
考察ってのはあっているかどうかよりも説得力があるかどうか(読んで楽しいか)が大事だと思っています。
途中までの考察は誰しもが思いついたモノですが
爆発させてすべての可能性を作るというのはよく考えたら思いつくはずなのに言われるまで思いつきませんでした。
猫箱にしてすべての可能性を作るというのは正しいのではないかなと思います。
そもそもひぐらしも梨花のループという能力があることで雛見沢もいろいろな可能性が存在していますよね。
それによって鬼隠しも祭囃しもどっちも事実として存在するように
うみねこもいろんな事実があってそれがどういうルールの上でなのというのが大事なのだと思いました。
竜騎士さん自身がいろいろな可能性を秘めた物語を作るのがコンセプトなのでしょうかね。
次回作も別のルールでたくさんの可能性を秘めた物語を作るのかな?って感じです。
非常に明晰で筋が通り、わかりやすい考察だと思います。
紗音の動機は、作中描写を素直に受け取るとこれしかないですよね。
納得がいかない、おかしい、なんて声もちらほら耳にしますが「動機なんて本人にとって十分でありさえすればそれで成立するんです」(by 大石蔵人)なんて台詞も前作ひぐらしにありましたしね。
さて、ここから朱志香説にどう引っ繰り返していくかも非常に楽しみなんですが……。
「まずEp7を紗音説で読む(下)」では、EP7のもうひとつの爆弾である「お茶会」について触れられるんでしょうか。
個人的にはそちらの方も大変に気になります。
お忙しいかとは思いますが、どうぞ更新がんばって下さい。
関係無いけど、六軒島破壊爆弾がツボでしたw