TOKIO 91.1-6「掌」26
0098 歪ませながら駅伝走者は走り二十一世紀に近づく
0099 死人ころがっているように蒼白のスカーフ無視される通勤の駅
0100 ただ黒々と粒子ぶつかりあって自然法則あり通勤の朝
0101 老妻杖つく夫を気づかう階段、巨大駅に姥捨山がある
0102 伸びるにまかせた髪と髭、放浪者は紙袋に哲学を持ち歩く
0103 純白の嘘などをついてサラブレッドの優しい目を見つめている
0104 真冬地下道にヨガの修行者ダンボールの上で虚空を睨む
0105 幻想打ち砕いた破片チリ鍋に煮て老後を語る赤ちょうちん
0106 不平不満おし隠す不在の父に寄りかかられる吊革の哀れ
0107 炎天に身を責められる覚えはない飢え乾きつつ歩道を歩む
0108 蟻に似た生態系をもつかサラリーマン灼熱の歩道這い回る
春 雷 会議の席に 90.4
0109 資料の上に置いたメガネに活字が小さく惚けて浮かぶ
0110 所在なく手にした書類の余白に表面の凹凸を感じている
0111 2Bの芯で極太の字を書けば自由でいたいとノートの線をはみ出す
0112 理解されない意見が染み跡を残すワインレッドのノートカバー
0113 会議の意見頷いて聞いている今日は好きなワイシャツを着た日
0114 神の裁きの開始を知らせる春雷に地獄を恐れて沈黙している
0115 ノートを閉じて姿勢を正し正面を見つめる、神を求めるように
0116 意味もない無駄な発言に漆黒の雲から神の怒りが落ちる
0117 雨上がりの空にもくもくと湧きあがる雲気分はサマータイム
湾岸戦争 91.2-3新短歌連盟92年「アンソロジー」
0118 戦闘はかの地にて開始されておりベンツに乗った農民が出かける
0119 モノクロの画面にまた現れた独裁者 地球儀の風船もてあそぶ
0120 踏み切りの警報機、突然鳴りはじめ明け方の戦車出撃
0121 柱時計世の終わり刻む音して遠い砂漠が赤く焼ける朝
0122 世界地図めらめらと燃えだしてうろうろとする首相府
0123 パソコンゲームの画面操作すれば撃墜機に人間がいる
0124 私の街は眠りについた 湾岸深く侵入する敵機を知らず
0125 レーダーには人間が見えない、銃口からは心が見えない
0126 真夜中に救急車けたたましく走り去り、走行不能の戦車をめざす
0127 砂漠の嵐にエンジンが止り飛べない自衛隊機なおも飛ばそうとする
0128 砂漠のひざしが強く地球を壊そうと駱駝にミサイルを積む
0129 コップの冷たい水を口に含めば塹壕の無線は叫ぶ「水、水、水」と
0130 十万の兵士の屍 赤い砂漠となって今宵のぼる三日月
0131 月の砂漠に照らし出されて影をつくる焼け焦げた戦車
0132 夜間基地飛び立つ戦闘機の行方に青く光る無言の星
0133 白旗の兵士に砂漠の風がはこぶ聖戦さけぶ閣下の声
0134 チャルドにつつむ顔に冷たい眼 帰らない夫 子の行方知らねば
0135 手を振っているのは僕ではない 掃海挺がでてゆく朝の桟橋
0136 澄みわたる大空は汚される大地を見ているアラーの眼だ
0098 歪ませながら駅伝走者は走り二十一世紀に近づく
0099 死人ころがっているように蒼白のスカーフ無視される通勤の駅
0100 ただ黒々と粒子ぶつかりあって自然法則あり通勤の朝
0101 老妻杖つく夫を気づかう階段、巨大駅に姥捨山がある
0102 伸びるにまかせた髪と髭、放浪者は紙袋に哲学を持ち歩く
0103 純白の嘘などをついてサラブレッドの優しい目を見つめている
0104 真冬地下道にヨガの修行者ダンボールの上で虚空を睨む
0105 幻想打ち砕いた破片チリ鍋に煮て老後を語る赤ちょうちん
0106 不平不満おし隠す不在の父に寄りかかられる吊革の哀れ
0107 炎天に身を責められる覚えはない飢え乾きつつ歩道を歩む
0108 蟻に似た生態系をもつかサラリーマン灼熱の歩道這い回る
春 雷 会議の席に 90.4
0109 資料の上に置いたメガネに活字が小さく惚けて浮かぶ
0110 所在なく手にした書類の余白に表面の凹凸を感じている
0111 2Bの芯で極太の字を書けば自由でいたいとノートの線をはみ出す
0112 理解されない意見が染み跡を残すワインレッドのノートカバー
0113 会議の意見頷いて聞いている今日は好きなワイシャツを着た日
0114 神の裁きの開始を知らせる春雷に地獄を恐れて沈黙している
0115 ノートを閉じて姿勢を正し正面を見つめる、神を求めるように
0116 意味もない無駄な発言に漆黒の雲から神の怒りが落ちる
0117 雨上がりの空にもくもくと湧きあがる雲気分はサマータイム
湾岸戦争 91.2-3新短歌連盟92年「アンソロジー」
0118 戦闘はかの地にて開始されておりベンツに乗った農民が出かける
0119 モノクロの画面にまた現れた独裁者 地球儀の風船もてあそぶ
0120 踏み切りの警報機、突然鳴りはじめ明け方の戦車出撃
0121 柱時計世の終わり刻む音して遠い砂漠が赤く焼ける朝
0122 世界地図めらめらと燃えだしてうろうろとする首相府
0123 パソコンゲームの画面操作すれば撃墜機に人間がいる
0124 私の街は眠りについた 湾岸深く侵入する敵機を知らず
0125 レーダーには人間が見えない、銃口からは心が見えない
0126 真夜中に救急車けたたましく走り去り、走行不能の戦車をめざす
0127 砂漠の嵐にエンジンが止り飛べない自衛隊機なおも飛ばそうとする
0128 砂漠のひざしが強く地球を壊そうと駱駝にミサイルを積む
0129 コップの冷たい水を口に含めば塹壕の無線は叫ぶ「水、水、水」と
0130 十万の兵士の屍 赤い砂漠となって今宵のぼる三日月
0131 月の砂漠に照らし出されて影をつくる焼け焦げた戦車
0132 夜間基地飛び立つ戦闘機の行方に青く光る無言の星
0133 白旗の兵士に砂漠の風がはこぶ聖戦さけぶ閣下の声
0134 チャルドにつつむ顔に冷たい眼 帰らない夫 子の行方知らねば
0135 手を振っているのは僕ではない 掃海挺がでてゆく朝の桟橋
0136 澄みわたる大空は汚される大地を見ているアラーの眼だ