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はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第1章 夢がさめてから(6)

2016年05月12日 | 短歌
冬のとんぼ(わたしへの挽歌)  91.2-11




0179 生まれでた誤謬、永遠に解けることのない方程式がある

0180 肩厚き身をもてあます青春の火照りも失せて冬の足音

0181 貧しいなりの生き様があると腹をくくれぬ影をけとばす

0182 六月二十八日生誕の影を描く月の光りに抱く透明の憎しみ

0183 母が死んだ十一月 父が死んだ一月 私は十二月に死にたい

0184  地球を支える柱があって多分僕はその柱に凭れて眠っていたのです

0185 どんどんどんと握った拳で机を叩く、悔しい悔しい悔しいのだ

0186 石になった僕を捜す、俺はここだとしかめっ面の羅漢が手招きしている

0187 指震わせて苛立つ目にたゆとう煙りに霞む秩父の山がある

0188 人にはきつく自分に甘いからだにいいわけないよ糖分の取りすぎ

0189 それゆえにこそ真夜中に徘徊する腹を空かした野良を愛しむ

0190 ははと笑って、冬の空にトンボが飛んで風のなかに消えた






驢馬の目  90.5『掌』27


0191 憎しみを抱けば暗緑の茎に六月の薔薇は一つ寂しく

0192 御身だけその救済を乞い祈れば闇夜に薔薇の刺を磨く

0193 遠海の波のうねりに重なれば怒りは満ちて薔薇の首を撥ねる

0194 薔薇の花ひとひらひとひら毟り捨てて心の内を隠すいきさつ

0195 あじの開き骨まで箸でつつけば鳥葬に身を委ねる悪夢

0196 拳銃の銃口を当てる小さな額あなたの額をじっと見る

0197 忽然と変化する我が生態系岩となる過程憤怒のあまり

0198 誰もが感情の底にもつ殺意というやさしい法律用語

0199 ガレー船の奴隷になって櫂を漕ぐ息つまる真夏の夜の夢

0200 蒼空の果ての果てにも溶けず 蝶がひらひらと雲をこえる

0201 両眼に溢れるほどの星を見つめれば地球脱出の時を窺う

0202 誰をまてばよいのかこの都会で驢馬の目は青く荒れ野をうつす

0203 右か左か大工の子に道を聞く 示された方向が見えない








カフェ・オリエンタル
  91.3『掌』28

映画「カフェ・オリエンタル」
                  少女は父をみている。雨の降る昼下がり、
                  緑の髪をとかしながら、女へと成熟していく、
                  カフェ・オリエンタルは通りの角にある。

0204 少女は鏡の前で紅をひき父に話しかける言葉をさがす

0205 紛れもなく父には愛人がいると密やかにエリック・サティを聴く

0206 蒼い眼をした獣父の影に棲むと少女はひとり髪を梳く

0207 内に秘める母を嫌悪して少女は父という男の背をみている

0208 その母と違うしぐさする少女に口つぐむ父の青いまなざし

0209 後ろ姿に声かけられないまま置き去りの父のオートバイ

0210 カフェ・オリエンタルの窓際に一人座っていた父を見ている

0211 遠くで雷が穏やかに鳴っている 銃声ののちのみずうみの静寂







夜更けに歩く猫  91.9『掌』29

                  
0212 喫茶店で片言の日本語が混じる密やかな会話人身売買の相談をしている

0213 素顔まだ初なままに新宿の蝶に孵化する時を待つ南国の少女

0214 男は汗を売り女は媚を売る都市 バビロン、ローマいまTOKIO

0215 百合の香鼻腔を強く刺激してSHINJUKUは毒ガスに包まれている

0216 明るい結末しか言わないからいつのまにか僕は嘘吐きにされていた

0217 雨だれをひとつぶ一粒数えていた 僕の一日が終わってしまった

0218 真夜中に階段をコツッコツッと孤独を嫌う人攫いの足音がひびく

0219 神様は小さな地球儀一つ膝に抱えて暗やみの中に座っている

0220 無口な空気が突然真っ赤な声で地球は生きているとお喋りをはじめる

0221 少女が駆けて行く美しい浜辺の空にそっと放射冷却水を噴き出します

0222 青空に鴎静かに飛んでいる故郷はチェルノブイリにほど近いところ

0223 時には軌道を外れたいと欲しながら地球は黙って回っている

0224 夜更けの街を猫が歩きまわり不幸な奴の屋根で鳴いている