愛するイワンへ 90.6-91.8
「世紀末を前に世界の体制がおおきくゆらぎはじめた。ソビエトは 崩壊し、ロシアに戻る。
激しい風が吹いて、世紀末という大きな頁がめくられていく。ロシアに「自由を」
0225 シベリア鉄道の黒い線指さきでたどれば六万の死者の列がつづく
0226 捕虜となった六万の死骨埋もれる凍土の大地に シベリア杉は育つ
0227 民衆は冷たく仰ぎみていた 北空に光るペレストロイカ座
0228 黒パンに少し自由が添えられてイワンの食卓でそっと乾杯
0229 救済リストに加えようウクライナの草原に落ちてゆく大きな夕陽を
0230 裏切るための友はもつまいゆったりとゆったりとボルガは流れる
0231 シベリアの大地に陽が沈むとき トロッキーという馬を愛した
0232 北極の白熊飢えに目覚めれば 巨体もてあますゴルビー飼育係りは
0233 読む人もない国禁の書 印刷機が止まり死に至るユートピア
0234 「幸せの預言」一世紀すぎて放射能に犯された大地にたたずむ
0235 レーニン、君は間違えたのだ ロマノフが親しげに声をかけた八月
0236 ボルガの流れ指でたどれば サーシャ 君のひとみは深い藍色
信仰告白 91.10『掌』30
愛しい女を見つめるように自分を見つめる目はいつも優しい。
自らを顧みることは少なく、己への執着心だけが残る、楽しいときには顧みず、、
苦しいときにすがる。身勝手な人間、愚かな人間、が目の前にいる。
0237 そしていま黙示録を静かにひらき地球終焉の預言をさがす
0238 いまもなお十字架に釘打つ音ひびく雲おおうこの丘の家々に
0239 飼いならされた日々を砕く神を呼ばわるいまわの叫びがきこえないか
0241 その脇腹をつき刺す槍の穂先の冷たさに言い出せぬままの信仰告白
0240 赤いカンナは道端に口をとざした百卒長はかの丘に立ったまま
0242 この丘にも雨が降り流れてゆくひとすじの十字架の血を見つめている
0243 とめどなく流れる涙がある 葡萄の蔦にからまれて遠いカナンの地
0244 明けゆかぬ世もまたある 寝つかれぬ夜のイザヤ書第二十二章
0245 それほどの愛に満ちて人をつつめずつまずき歩く石畳みの道
0246 あの救い主はいまどこにいますか 頼りない風景に目が凍ってゆく
0247 十字架に架けよと叫ぶ群衆のなかで拳をふりあげていたではないか
0248 身にまとう華麗なものはなにもない立ちとどまれば死海のほとり
0249 しかもなお月の光りのするどくて隠せるものなにひとつない
0250 神を信じるかと真夜中の電報 否、否、否、否と返電している
0251 救いのことばに背をむけている冬空に北極星がかがやいている
0252 おだやかな冬の歩道の陽だまりに自分の影と向きあっている
0253 ひと花づつ牡丹散りもとよりは天涯孤独と言いすてる
「世紀末を前に世界の体制がおおきくゆらぎはじめた。ソビエトは 崩壊し、ロシアに戻る。
激しい風が吹いて、世紀末という大きな頁がめくられていく。ロシアに「自由を」
0225 シベリア鉄道の黒い線指さきでたどれば六万の死者の列がつづく
0226 捕虜となった六万の死骨埋もれる凍土の大地に シベリア杉は育つ
0227 民衆は冷たく仰ぎみていた 北空に光るペレストロイカ座
0228 黒パンに少し自由が添えられてイワンの食卓でそっと乾杯
0229 救済リストに加えようウクライナの草原に落ちてゆく大きな夕陽を
0230 裏切るための友はもつまいゆったりとゆったりとボルガは流れる
0231 シベリアの大地に陽が沈むとき トロッキーという馬を愛した
0232 北極の白熊飢えに目覚めれば 巨体もてあますゴルビー飼育係りは
0233 読む人もない国禁の書 印刷機が止まり死に至るユートピア
0234 「幸せの預言」一世紀すぎて放射能に犯された大地にたたずむ
0235 レーニン、君は間違えたのだ ロマノフが親しげに声をかけた八月
0236 ボルガの流れ指でたどれば サーシャ 君のひとみは深い藍色
信仰告白 91.10『掌』30
愛しい女を見つめるように自分を見つめる目はいつも優しい。
自らを顧みることは少なく、己への執着心だけが残る、楽しいときには顧みず、、
苦しいときにすがる。身勝手な人間、愚かな人間、が目の前にいる。
0237 そしていま黙示録を静かにひらき地球終焉の預言をさがす
0238 いまもなお十字架に釘打つ音ひびく雲おおうこの丘の家々に
0239 飼いならされた日々を砕く神を呼ばわるいまわの叫びがきこえないか
0241 その脇腹をつき刺す槍の穂先の冷たさに言い出せぬままの信仰告白
0240 赤いカンナは道端に口をとざした百卒長はかの丘に立ったまま
0242 この丘にも雨が降り流れてゆくひとすじの十字架の血を見つめている
0243 とめどなく流れる涙がある 葡萄の蔦にからまれて遠いカナンの地
0244 明けゆかぬ世もまたある 寝つかれぬ夜のイザヤ書第二十二章
0245 それほどの愛に満ちて人をつつめずつまずき歩く石畳みの道
0246 あの救い主はいまどこにいますか 頼りない風景に目が凍ってゆく
0247 十字架に架けよと叫ぶ群衆のなかで拳をふりあげていたではないか
0248 身にまとう華麗なものはなにもない立ちとどまれば死海のほとり
0249 しかもなお月の光りのするどくて隠せるものなにひとつない
0250 神を信じるかと真夜中の電報 否、否、否、否と返電している
0251 救いのことばに背をむけている冬空に北極星がかがやいている
0252 おだやかな冬の歩道の陽だまりに自分の影と向きあっている
0253 ひと花づつ牡丹散りもとよりは天涯孤独と言いすてる