消えゆく懐かしの音色=時告げるサイレン、残り数台-デジタル音に移行
正午や夕方に音色を響かせ、時を告げていた「ミュージックサイレン」。時代と共にデジタル音に変わり、懐かしの音色を奏でるのは全国でも7台を残すのみとなっている。
ミュージックサイレンは、圧縮した空気を一気に押し出すサイレンの仕組みを利用し、音階をつけた装置。高さ約2メートル、幅約1.4メートルの本体にある「発音ユニット」の穴を開閉することでハーモニーを奏でる。最大24音まで出すことができ、クラシックや民謡などを奏で、戦後の人々の暮らしに溶け込んできた。
製造元のヤマハファインテック(浜松市)によると、空襲警報を思い出させるサイレン音の代わりに開発され、1951年以降、旧型・新型合わせて約200台を販売。全国の公共施設や百貨店で活躍したが、腕時計の普及などに伴い受注が減り、98年に販売を終了した。
近年は防災行政無線の屋外スピーカーから流れるデジタル音のミュージックチャイムが一般的だが、音質は全く違う。ミュージックサイレンは「空気を振動させて音を響かせるため、伸ばしや最後の音に余韻が残るのが特長」(同社担当者)。近くでは体が震えるほどの大音量で、約4キロ先まで届くが、スピーカーにはそこまでの音圧はないという。振動した風に乗り、本来聞こえないはずの場所で聞こえることもあった。
現役で稼働するサイレンはヤマハ本社(浜松市)や愛媛県八幡浜市など全国で6カ所、7台しかない。うち1台が設置されている岡山県庁(岡山市)では、不具合はないものの故障すれば修理できなくなるため、8月末の使用停止を決定。57年の県庁完成から60年間の歴史に幕を下ろす。
周辺に高層マンションが建ち始めると騒音の苦情もあり、97年に一時停止したが、継続を望む声が多くすぐに再開した。以後、休むことなく正午にシューベルトの「菩提(ぼだい)樹」、午後5時にはドボルザークの「家路」を奏でてきた。
時事通信 2016年8月27日付