真夜中の山の遊園地
暗闇に仄かな月明かり
客は勿論、従業員もいない
偶々、同じ時
3組がその貸切に訪れた
「ミアイお兄ちゃん、私のサンダルあるかしら」
「初めて来たんだから、ないだろう」
「うん、そうだよね。ねえ」
「うん?」
「メリーゴーラウンド。乗っていい?」
「動かんぞ」
「いいの。お願い。馬車に乗りたい」
「馬車?」
あれ、トマトの馬車
お兄ちゃんは馬
けっこう楽しいぞー
ふう、コーヒーカップか
「こんなとこに宝なんか無いだろう」
ん?あれは
城か。調べてみるか
おい、観覧車だ
「乗るか、ラララ」
「乗ってどうする。動かないんだぞ」
「宝って、意外とああいう所にあったりしないか」
「・・・たまには、マトモなこと言うんだな」
「おいおい、俺は副キャプテンだぞ!今はラララより上なんだぞ」
「ヘイヘイ、ルルルさん。調べてみるか」
「ああ、そうだな。調べてみましょうか、だろ。」
「行くぞ」
「・・・」
乗り込めるゴンドラは一台のみだった
一番低いゴンドラに乗り込む
ラララとルルル副キャプテン
春はあけぼの
やうやう白くなりゆく
山際、少し明かりて
紫だちたる雲の細くたなびきたる
草木萌動
春だ
エメラルド山にも春が訪れる
くうくう
ハミル
起きろ
お前の好きな春だぞ
よく寝るの
このクマは
ええ
キサマ様
本来は冬眠している筈ですので
おっ
オッス
ワエハに
キサマ様
起きたか
ハミル
「ハミル、スッキリしとるの」
「うん、キサマ様」
なんだろ、変に気が合った
熊のハミル、蠅のワエハ、そして蜚蠊のキサマ
合言葉はコナイデ
そんな物憂げな共通項の3体だったが、
ハミルは感じていた
ばあちゃんの優しさや
ナオトとの寄り合いや
勿論アロヤの厳しさとも違う
獅子のトシミとも、
ワエハやキサマ様といると心が和んだ
気疲れとか体面を取り繕うような、距離感の隔たりが少なかった
初めての落ちつきだった
これが友と呼ぶに相違いない感覚なのだろうか
「ハミル、血吸うたろか」
「それは蚊だ!ワエハは蠅だろう!」
「アッハッハ。ハミル見ておれ」
キサマ様が近くの木に登り始めた
「ほれ!どうじゃ!」
「飛んだ!!キサマ様飛べるんですか!?」
「そうじゃ、ワシは空だって舞えるんじゃぞ」
ゴキブリは飛ぶ
とは言えど、地面から飛ぶようなことはなく、高い所から降りる時に羽をはためかせて自身の体を支える
最大距離で5mくらい
「すごい!ワエハも飛べるし。俺も飛んでみたいな」
ハミルが口惜しそうに発して噤んだ
右の口角を少し上げて、やや微笑みを作った
「お前が飛んだら世界がひっくり返るぞ」
ワエハが言いながら、ハミルの頭のてっぺんまで羽ばたいた
「飛ぶ熊か、見てみたいもんじゃな」
キサマ様が少し誇らしげに、ゴキブリの羽を左右に揺らす
「綺麗な羽ですね。キサマ様」
「なにを、ワシはゴキブリじゃ」
「だからなんだって言うんですか?」
「うん、なんじゃハミル。そんなの当然じゃろ。ワシは嫌われ者の代名詞みたいなもんじゃ。ゴキブリじゃぞ。蜚蠊」
「俺はキサマ様が好きです」
「ありがとう」
照れ臭そうな表情を浮かべたキサマ様
その様子を熊の旋毛から優しく見つめるワエハ
そのまま口を開く
「俺たちは、、
「うわ!あいつ前の奴!」
「えっ、蠅と蜚蠊と一緒?」
「おいおい、すごいトリオだな。アンクナット、なあ。熊と蠅と蜚蠊だぞ。嫌われ者トリオかよ」
「ふん、まあいいんじゃないか。ほっとけ」
「所詮俺たちは、見せ物さ。塔と一緒だよ、俺なんて」
言葉が終わって、森閑のシジマの中に鳥の囀りが渡ってくる
どこか悲しげに人気者達も歩き出した
「あいつら、許さねえ。馬花にしやがって!刺してやる!」
怒りの表情を浮かべて羽を広げる、蠅
「やめろ!ワエハ!」
ゴキブリがハエを塞き止める
「やめなさい。ワエハ。我々は我慢するしかないんじゃ。攻撃なんかしてしまえば返り討ちされるだけじゃ。儂等は嫌われている上に、無力。いいか、生き抜くには耐えるしかないんじゃ。プライドなんて捨ててしまえ。誇りなど一切持ち合わせるな!」
「ワエハ様。悲しいです、悲しいですね。俺たちだって必死に、一生懸命生きています」
花美留は?
震えている?
小刻みに振動する肉体を制御できない
熊の様子に気付いて戸惑いながら、ワエハ
「どうした、ハミル」
「いや、少し、うん、大丈夫、ごめん、ごめんなさい」
「どうしたんじゃ。ハミル。何かあれば話していいんじゃぞ。ワシらは仲間じゃ。何故震えておる?」
こ、こわい、んです
殺られるよりも。
野蛮だとか、暴挙だとか、怖い存在
決めつけられていることが
ただ生まれてきちまって、
生きるしかなくて、
只、必死で生きる
過程でやっちまって、
迷惑かけて
そんな存在になっちまって
そんな視線を浴びちまう
俺には、どこに行っても殺戮のイメージが、俺の爪にはこびりついちまって拭われねぇ
強力な除光液でもぶっかけてマニキュアみてえに落とせりゃいいのに、そういう訳にもいきやしねぇ
ああ!あい!
冷てえ視線で、悪魔の言葉で
尊厳を破壊されることが、怖くて仕方ねぇ
「ハミル」
「花美留、大丈夫じゃ!仲間じや」
俺の爪を剥がしてくれ
銃口じゃねえし、
麻酔打たれた記憶が痺れちまって微動が止まらんねえ
そんな視線じゃなくて
すいません
資格はありますか、許可はいりますか
俺が浴びたいのは
除光しねえでくれ、よ
寄越しやがれ
そのスカスカの棒を
共存できるか
なあチュリミ
うーん
どうかな
危害の可能性がある以上無理だよな
うん
科学がどう進歩するか
殺傷能力を抹消できるか
私のポカポカ頭じゃ分からないよ
そうだな
無人島
動物達のか
私のフワフワ頭じゃわからないよ
くまったな
初めての
そうか
りんごしま
りんご島
りんご縞だろ

人と動物の縞島
ちゃんと隠してよ