どうだ
売上は

いまいちです
アミルクリアファイルは

前年90%です
アミルバインダーは

全く
売れていません

「どうなってるんだ」
ミナア課長が憤りの言調で発言した
女メロンが冷淡に口を開く
「やはりキャラクターに問題があるのではないでしょうか」
「アミルか?」
「ええ、あまり可愛くないですし」
ミナアが顎を摩る
「俺はいいと思うけどな」
レイン課長代理は真剣な眼差しで意見した、誰とも目を合わせない
一刻、誰かが息を飲み込んだ低めの音が響いた
「認知の問題じゃないですか。アミルなんて言ったところで誰も知らないですし、こちらがいくら薦めたところで独りよがりになっているだけですから」
「まあ、それは分かるが」
ユウキの至極真っ当な意見に課長はまた、息を飲んだ
「変なライターと契約するからですよ。アミルなんて不細工な問題でしかないんですよ」
「社長と懇意の人間なんだ、から。仕方ないんだ」
「くそ」

その頃
タカト部長
内線2番でーす

はい
「お待たせしました、タカトです」
「タカトさん、私です」
「社長」
「今、よろしいでしょうか」
「はい、承ります」
「ちょっと、打合せしたいのですが。お時間頂けますか」
「はい、わかりました。お伺い致します」
「そうですか。ケンイチ課長とミナア課長もお手隙でしたら同席願いたいのですが」
「かしこまりました。両名ともおりますので、共に参ります」
「ノメクさんはいますか?」
「はい、声かけましょうか」
「いえ、結構です」
「分かりました、5分ほどでお伺いできると思います」

「ふう、おい!ケンイチ課長にミナア課長。社長がお呼びだ!行くぞ!」
本社営業部2課 課長ミナアはミーティングを課長代理レインに預けてタカト部長の元へ参じた
本社営業部1課 課長ケンイチは逸早く部長席の傍に起立した

管理職3名が昇降機に乗り込み
最年少のミナアが乗場操作盤を制して
最上階の9階へ昇る
失礼します

みなさん
お忙しいところ

ありがとうございます
「どうぞ、掛けてください」
「はい」
テーブルを隔て社長と対する長椅子に、
部長を中心として
ケンイチが右腕側に、ミナアが左手側に着いた
ほんの数秒のうちに、ドアがノックされて社長が応じると、
ノメクがお盆を手に入室した

黒い茶托に白の茶碗を各々に出して一礼、退出する
彼女は社長秘書兼2課営業員だった
主たる役割は社長秘書だが、秘書たる業務に隙ができた時には8階の総務部ではなく6階の営業部で仕事をする
ほぼ外回りはなく、社長からの連絡には常に応答できる周到を心得ていた
「みなさん、我が社の本業は文房具の製造販売です」
「はい」
「この度、新規事業に参入します」
3名は呆気に取られたように社長を見つめる
タカト部長がか細い声で応じた
ルミヤ社長が席を立ち
社専用の大型紙袋を2つテーブルに置いた
一つから品を取り出し
鞄に財布
「これはケンイチ課長の第一課」
もう一つの紙袋には、
下着だった
「これはミナア課長の第ニ課」



「ある下着ベンチャーと業務提携をしました。そちらの商品の販売業務を執り行います。鞄や財布はチャッ熊という会社に生産を依頼しました。職人さんが手作りで仕上げてくださいます。我が社からはデザインのみを提供して、チャッ熊有限会社さんに生産を委託します。当社ではデザイナーを2名採用しました」
ルミヤ社長が内線で、お願いします、と一言告げた
一刻、
ドアが音を立てて、「どうぞ」

「宜しくお願い致します」
「ナツコさんとハケルさんです。2名には当社のあらゆるデザイン関係を担当していただきます。雑貨に限らず、本業の文具もです」
管理職3名は立ち上がり、2名と名刺を交わし挨拶を済ませる
2人は社長の微笑みと会釈を交わし退出した
再び長椅子に着席する
「師走の頃から新事業を展開させる構想です。細かい詳細は後日致します。取り急ぎ事業展開の概略のみ説明させていただきました」
3名はあまりに唐突な多角化の思惑に困惑するばかりだった
「社長。我が社はどこを目指すのでしょう」
ミナアが意を決して尋ねた
「全部です」
「全部・」
40年やりたいからです
いや
農業・林業・水産・食品・家具・家電・衣料・住居・医療・政治・経済・自然・環境・教育・運動・健康・演劇・芸能・映画・音楽・舞踊・歴史・宇宙・運送・鉄鋼・貿易・司法・行政・立法・学問・労務・化粧・頭髪・調理・保険・動物・昆虫・植物・工芸・陶器・木・花・石・土・酒・煙・賭・株・歯療・内閣・国会・神様・お天気
朽ちるまで
森羅万象を起記します

「それから。冬の頃に新事業を据える季節には理由があります。10月1日に社内選挙を行うからです。ええ、社長選出選挙です。はい、そうです。いえ、その考え方は間違っています。間違ってはいないかも知れませんが、最優先されるべきではありません。あくまで定説の一つですね。特に我が社は上場してませんので、その説とは少なからず乖離があます、積極的とするべき信条ではありません。例え、未来において業績が伸長して新規公開株式を利用して上場に至ったとしてもです。企業理念です。私は当社の株式を所有しています。管理職から売買可能な持株制度がありますから、御三方の中にも株式を保有している方はいらっしゃいます。私は弊社の第2位の株主です。1位は会長です、会長には代表権は付いていませんから実質的な経営権は私にあります。資本主義国家ですし、定説通り会社は株主の持ち物です。から?・・・・
至上命題を"良い会社を作ろう"とします。これが私の所する企業理念です。子供でも理解できる単語と動詞と助詞と形容の連なりです。良い会社を作ろう。私は社長ですが、従業員の皆さんから認められているのでしょうか。確かめる必要があります。会社の宝である従業員に信頼されていない人間が社長を務める訳にはいかないんです。従業員からクソ野郎と思われているような人間が社長の椅子に座り続けている限りは、良い会社とはあり得ないです。一番大切なことです。当たり前のことなんです。社員が社長を選ぶのです。誰でも権利があります。新入社員でも最たる得票数を獲得したならば、社長です。私は社員の皆さんに社長不適格を示されたなら、喜んで社長を退任します。私より適格な社長がいたのですから、これ以上嬉しい幕切れはありません。
人気投票になる?なりません。自身の会社の社長の投票権です。あなたの生活に直結する重要な投票権です。好きだけどほとなくやれない人間を選びますか。嫌いだが必ずやる人間を選びますか。真剣に人間を吟味する場面など、現社会ではそうありません。政治家の選挙投票はそれに与する場面ですが、まずは我々の給料に一番影響を及ぼす組織から、
です。我々も人の選び方を勉強しなければなりません。
逸れましたが、
誰等に会社を与えるか、株券という資本で支配権を得る者達か、粉骨砕身,勤しみ会社を下支えする勇士たちか
理がそのように言っています。コトワリがさように申し仕り候。誰が代表取締役社長に適しているかを一番よく理解っているのは、現場社員であろうと。さようでござろう。人間の仕事ぶりと侍る状況を一番近くで見ておられし方々。下るところ、現状の会社の在り方に異を感じている社員は私に投票しないでしょう。お三方も私の先程の事業拡大に不審を覚えたのでしたら、その他の理由でも結構です、私に投票しないで構いません。内閣総理大臣の選出方式に皆さんが疑念を抱くことと同様です。真剣に会社の行く末を考える良い機会です。2年に一度、10月1日、社長選出選挙をします。これは会社が存続している限り、初代社長私ルミヤの独断と最後の特権で、有効とします」
次期社長に選出されなかった現社長は、ヒラ社員に降格します
一度は社長を経験した人間です
2年後の選挙でその椅子へ座り咲く可能があります
一番上から一番下へ、そしてまた、

ジェットコースターの作り方です
「ですから、新事業の開始を12月にした理由は、時期社長が私以外になれば新社長の判断で反故にして構わないという時間の猶予です。鞄に財布と下着を詰め込んで放り投げればいいんです」
10月朔日選挙の10月晦日に就任式です
「シュン!お笑いの前に」

パンティー作れ

へっ?