花日和 Hana-biyori

ある古本屋の妻の話

引き続き、ちょっとづつ読んでいる「100万分の1回のねこ」から。

『ある古本屋の妻の話』
井上荒野さん。こちらも初めて。

最初のほうに、古本をさわっていると指先がほこりで荒れてくるという文があって、話の印象もそんな感じだった。夫や現在の生活にウンザリしている妻の、じくじくした思いが綴られていて、途中はそれこそ嫌なものを見せられたという気持ちになった。

それでも、そういう思いが滲み出てくるわりには文章にあからさまな恨み節のしつこさがないのが上手いと思う。泣きそうだけど泣くもんか、と心を殺して暮らしているあやうさを感じるのだ。

一番はっとしたのは、古本の買い取りに行った先で、幸せそうな家族の歴史がわかる写真たてを見たときの心の内だ。

そして誰もいなくなった。あたしは心の中で呟いてみた。夫がいたって子供がいたって孫がいたって、人は最終的にひとりになる。
(中略)
だけどこんなふうに夫のほうに傾きながら微笑んだときの記憶があれば、幸福だった、と思って死ぬことができるのだろうか。


このひとの孤独と淋しさががとてもよく分かる。

結末は、ちょっとだけ意外な妻だけの自己完結で終わる。見切ったつもりの夫が予想外の反応をしたのだ。

やり直そうなどと積極的なものではないけど、壊さないでおこうと思う理由は些細なものでよいのかもしれない。
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