村上春樹:著(講談社)
Audibleにて。あまりよく分からない謎かけのような話だったけど、とにかく全部聴きたい気持ちにさせられた。朗読は宮﨑あおい。
大学時代からの親友“すみれ”の人生を、小学校教師である「ぼく」が語る。小説家をめざす個性的な彼女を「ぼく」は愛していたが、すみれとは友人のままだった。
あるときすみれは熱烈な恋に落ちるが、相手は30代後半の“ミュウ”と称する既婚女性だという。やがて「ぼく」は、ミュウに雇われたすみれがギリシャの島で行方不明になったと知らされる。
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浮世離れした友人すみれの存在はどこか空想的でふわふわしているし、ミュウの回想も衝撃的ではあるがどこか幻想的だ。
しかし終盤で教え子の万引きのエピソードがあり、それだけがやけに現実的で生々しい。その分かりやすい猥雑な現実のなかにも、理解できない子供の内的世界があり、そこに無理やり踏み込んだりはしない「ぼく」の姿勢がある。教育的配慮というよりは、人と寄り添い合うことが苦手なこの人の孤独が一層浮き彫りにされたように感じた。
人と人とは分かり合えないけれど、「不在」によって強くなる愛しい誰かの存在感を描ききった物語なのかもしれない。
白髪の美形(ミュウ)は「騎士団長殺し」にもでてくる(免色)が、どういう意味を持っているのだろう。一度空っぽになった人、喪失感の象徴?とかでは簡単すぎるだろうか。
あまり合理的な理屈や結論をつけるものじゃなく、読んだ人それぞれに何かを考えさせる小説なのだろう。