毎年桜の花が散り始める頃になると 決まって耳の遠い父に代わって長兄から電話が入ります。
それは「爺さん(父)が筍を掘ってきて茹でたから取りに来てくれるかな?」です。
その電話が今年は桜が散ってしまっても掛かってきません。
次兄が亡くなって父はガックリ気落ちしてしまったのだろうか・・・・
心配して父に会いに行こうとしている矢先長兄から電話が入りました。
「筍 今 爺さんが茹でているので取りに来てくれないか?」 「勿論 今
行きま~す」と答えて実家に向かいました。
気落ちしているのだろうかと心配した父は元気でした。
庭にしつらえた竈にかけられた大鍋には沢山の筍が柔らかく茹で上がり
熱々のヌカ汁の中で冷めるのを待っています。
あと4か月余りで102歳になる父はさすがに今年からは山の斜面に上っての
筍掘りが難しくなったようで兄に頼んで掘ってきてもらったようです。
去年までは 父が毎日のように掘ってきた筍 今年は父が掘りに行かないので遅れたようでした。
それにしても 父は息子である次兄が亡くなっても気丈で姉には「お前の亭主は筍が好きだから・・・」 そして私には「〇〇子は一人だから・・・」と言って鍋の中の筍をビニール袋に分け入れてくれるのです。
私と姉は思わず顔を見合わせ「まさか兄が亡くなったことを忘れてしまった?」 「イヤ 絶対そんなことはあり得ない!」 「そういえば母が91歳で亡くなった時も 爺ちゃん(父)は前にも増してシッカリしたよね」
「そう、これから母任せだったことを何でも自分でしなければ・・・って」
「でも今は102歳だよ。そんなに頑張らなくても・・・・」 「性分なのよね・・・」
貰ってきた筍 今年は恒例の土佐煮や筍ご飯の他に 筑前煮風にしたり
雷豆腐ふうにしたりと一週間ほど筍料理が続きました。
父のお陰で柔らかくて新鮮な筍を今年も頂きました。
ピンクがかった艶のある そして皺の無い父の顔を見ていると父が茹でた柔らかい筍を来年も再来年も食べているような気がします。
父への手土産はご近所で貰った夏ミカンで作ったマーマレードジャムです。
ヨーグルトのトッピングとして食べてくれればと思います。