花笑 はなえみ

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華のあるひと バイロン卿

2015年08月19日 10時20分04秒 | 本棚

 ジョージ・ゴードン・バイロン 1788-1824


 1月22日、ロンドンに生まれ、大伯父のバイロン卿の後を継 いで10歳で第6代バイロン卿となりました。
 彼の自由奔放な生き方とその魂は、彼が生きた当時の英国キリスト教社会とは相容れないものでした。
 詩人として広く知られていますが、ギリシャの独立に多大な費用を投じ、5年後の独立をみないまま客死しています。
 美貌の貴公子バイロン卿は36歳という若さで没しましたが、その名は不滅、みたいです。

 んん・・10代の折手にしたバイロン詩集のいずれに惹かれたか忘れてしまいましが、歳月を経た現在、より瑞々しく伝わってくるのは一体何故なのでしょうか、解りません。

 今回は下記の1篇を載せてみました。


 「あるひとに」

1

さあ、今こそ潮風にふるえて
船はまっしろい帆をひろげる
しなる帆柱のうえで鳴りひびいているのは
吹きつのる嵐の叫ぶ歌だ
今こそ私は祖国を捨てる
ただひとりのひとを恋するために

2

今でも私が昔の私であったなら
今でもみんな昔のままであったなら
あつい心であこがれたあのひとの胸に
今でも私の心がとまれるものなら
見知らぬ国へなどどうしてゆこう
それもひとりのひとを恋するために

3

もう長い間あの瞳をみない
私によろこびや悲しみをあたえたあの瞳を
二度とそういうことを思うまいと
心に誓ったのもむなしい
このアルビオンの島を去っても
私が愛するのはただひとりのひとであるから

4

つれもなく、ひとり空とぶ鳥のように
私の心はさびしいかぎり
どこを眺めても、いつまで眺めても
なつかしい微笑みもうれしい姿もない
人なかにいても私はたったひとり
それもひとりのひとを恋するために

5

まっしろい波のしぶきを越え
私はいま知らない土地をたずねてゆく
まことでなかった美しい顔を忘れる日まで
私の心は休めるひまもなく
暗い胸の思いも消えはしない
ただひとりのひとをいつまでも恋するために

6

どんなに貧しくあわれな人でも
どこかであたたかく迎えられて
友情や恋のやさしい心にもめぐまれ
よろこびや悲しみを共にすることもある
けれどもこの私には友人も恋びともない
ただひとりのひとを恋するために

7

私はゆく、私がどこへゆこうと
私のために泣くような瞳はない
たとえ私がどんなに求めようと
やさしい心に逢うことはないだろう
私を捨てたおまえさえ、私をあわれと思わないだろう
ただおまえだけを私が恋しているのに

8

やさしい心のひとならば
過ぎ去った日の楽しい夢を追って
泣いて崩れることもあるだろう
けれども私の心は深い痛みにもたえて
昔とおなじく強く波打っている
ただひとりのひとを恋いつづけながら

9

ひとりのひとを深く恋するものは
世間の眼などに姿をさらしてはならない
おまえは知っている、昔の恋がどうして破れたかを
そして私は知っている、私がどんなに悲しいかを
この世に生きて、こんなにも長く
こんなにもひとりのひとを恋いしたものはいない

10

別なひとに心をひかれることもあった
おまえに似た美しいひとみをみて
おなじ思いを告げようともした
けれども何かが私を強くひきとめて
ふたつの恋をさせなかった
ただひとりのひとを恋するために

11
ためらいながらも、もう一度おまえに瞳をおくり
別れの言葉をつげて幸福を祈りたい
けれども今波のうえをさまよってゆく私のために
おまえの瞳がぬれたりするするのは望まない
故郷も青春も希望も去ったが
恋だけは去らないで、ひとりのひとを恋いつづける

 

 「あるひとに」は訳文(金園社版)のまま掲載(10:ひとみ)させていただきました。22歳から24歳の時に作られたもので「チャイルド・ハロルド」(あるいは「貴公子ハロルドの巡礼」)に収められています。
 アルビオンの島、とは英国の古い呼び名とのことです。

 実際バイロン卿が永久に英国を去ったのは1816年、29歳の時でした。

 有名な「魔弾の射手」の作曲者、カール・マリア・フォン・ウェーバー卿(1786年11月18日-1826年6月5日)もバイロン卿と同じ時代を生きていますが、彼らの道筋は互いに交差しなかったのでしょうか。
 ちなみに、ウェーバー卿はロンドンで客死しています。 

 かの時代は、かの社会は、彼らを突き動かす何かがあった時代だったのでしょうか。 

 彼らが生きた時代の日本。欧米の急速な近代化とともに日本は各国から開国を迫られ刻々と幕末が近づいてきた時代ですね。


参考資料

 対訳バイロン詩集 イギリス詩人選(8)
 笠原順路/カサハラヨリミチ編
 岩波文庫 2009年2月17日第1刷発行
 
 バイロン詩集
 阿部瓊夫訳(アベタマオと読むのでしょうか?)
 金園社発行 1967年7月1日発行