確定する前の「らしい」で記事になるのかといえば、例え兆候の段階であっても、それをいち早く捉えて報じることにも意義はあり、今回はそうした類のものである。
読者は結論として受け止めてはいけないのだ。あくまでも「兆し」なのである。
それにしてもトラフグといえばフグの王様。刺身にしてよし、ちり鍋にしてよし、白子を焼いたものはもう絶品中の絶品で、思い出すだけでよだれが垂れてくる。
話はのっけから脱線するが、フグの別名を「西施乳」といい、読み方はセイシニュウである。
呉と越が戦いに明け暮れた中国の春秋戦国時代、一度は父親の仇を取って覇権を手にした呉の夫差の許に、敗れた越から西施という絶世の美女が送り込まれる。
西施は楊貴妃、王昭君、貂蝉と並ぶ中国四大美女の一人だそうで、夫差はすっかり西施の虜となってしまい、ついには国が傾きかけた時、機会を狙っていた越に攻め込まれ、再び覇権を手放す結果となったのだという。
夫差をメロメロにしたのが西施の弾力のある真っ白い乳房で、究極の西施乳とはズバリ白子のことだろうと勝手に解釈しているのだ。
あぁもう、よだれが…
さて、本題に戻ろう。
繁殖しているといっても、まだ「らしい」という範囲にとどまるわけだが、調査した神奈川県水産センターによれば、センターが実施している養殖稚魚の放流で育った個体群以外に、伊勢湾辺りで繁殖しているトラフグが移動してきた可能性があるのだという。
去年の4月に千葉県富津沖で釣り船が産卵期の特徴を示すトラフグを100尾単位で釣り上げたとか、荒川河口で稚魚の群れを確認したとか、昨年10月からは横浜の柴漁港で一日平均35匹という少量だが、水揚げが続いているとか、まだ1年足らずの短期間の現象のまとめとはいえ、放流魚が一気に大きくなるわけはないから、天然ものの寄与が大きいともいえるようなのだ。
ただこれが一時的な現象なのか本当の繁殖なのか、まだ不明な点が多いのも事実である。
ともかく、稚魚の放流は続いているようだし、養殖の個体は鼻の一部が欠けているそうで、欠けていない個体も見つかっているということを重ね合わせると、天然ものの繁殖の可能性も高いのだという。
天然ものについて記事には伊勢湾辺りから移動してきたのではという記述があるだけで、その根拠は示していないし、そもそもトラフグは回遊魚なのかとか、生息場所を変えるというのであれば、なぜ今までそういう兆候がなかったのかなどの疑問には一切触れていない。
いわば欠陥記事の類なのだが、ともあれ、これまで全く縁のなかった海にトラフグが姿を見せるようになってきたということは確かであるらしい。
江戸前のトラフグというわけである。
これは大いに期待が持てるし、話題になるだろう。気の早い店ではトラフグの握りや焼いた西施乳が登場するかもしれないではないか。
その前に寿司職人はフグの調理師免許を取らなくてはならない。
食の風景が変わるかもしれないのである。
今後に注目である。
それにしても今冬はまだ一度も口にしていないなぁ。
相模湾にはまだ‟西施の乳”は存在しないのである
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