その仕度が、あまりに早かったので、大治郎は遠慮をする間とてなかった。
今が旬の浅蜊の剝身と葱の五分切を、薄味の出汁もたっぷりと煮て、これを土鍋ごと持ち出して来たおみねは、汁もろともに炊きたての飯へかけて、大治郎へ出した。
深川の人々は、これを「ぶっかけ」などとよぶ。
それに大根の浅漬のみの食膳であったが、大治郎は舌を鳴らさんばかりに四杯も食べてしまった。
食べ終えてから、はじめて気づき、
「や……これは……」
赤面したけれども、もう追いつくものではない。
(池波正太郎、「待ち伏せ」から抜粋)
アサリが美味しくなる季節になると、決まって池波正太郎の描く江戸下町・深川界隈の「ぶっかけ」を思い出して矢も盾もたまらなくなる。
飯に炊き込んだ深川飯もアサリの味が染み出て美味しいが、いささか行儀は悪くてもボクは断然、汁かけめしをかっ食らうことになる「ぶっかけ」派である。
あぁ、今年はまだ食べていないぞ……
そのアサリを中心とする二枚貝から「貝毒」が検出されているそうで、水産関係者が注意を呼び掛け始めたそうである。
瀬戸内地方や大阪近辺で獲れたアサリやカキなどの二枚貝を食べ人たちが下痢や麻痺の症状を訴えて病院に担ぎ込まれるケースが多いそうで、今のところ被害は局地的であるらしい。
原因はある種のプランクトンだそうだ。
二枚貝は海水を吸い込んでプランクトンを漉して餌にしているそうで、プランクトンの毒が貝の体内に蓄積することによって食べた人間に中毒症状をもたらすのだという。
重篤になると呼吸困難を引き起こして死に至ることもあるというから侮れない。
そんなニュースを小耳にはさんで「ぶっかけ」が遠のいたかとがっかりしていたら、たまたま見ていた地元の水産センターのホームページに「厄介者のプランクトン」という記事を見つけた。
貝毒発生はよくある事と見えて「定期的に検査をしているが、これまでのところ貝毒の原因となるプランクトンは大量には出現していないし、二枚貝から貝毒も検出されていないのでご安心を」という内容にヤレヤレの気分だが、スーパーなどで貝を買って来る場合は産地に気をつけたほうがよさそうである。
今頃の季節は潮干狩りの季節だろうし、楽しみにしている子供たちもいることだろうから水産センターのお墨付きは朗報に違いない。
東京湾のこちら側では横浜市金沢区の海の公園や野島公園前の浜で、対岸の千葉に渡れば木更津が潮干狩りの好適地で、今年の大型連休も浜辺が隠れるくらいに人が出ていることだろう。
さて、そういうことならボクの場合は「ぶっかけ」をいつ、どこで味わおうか知らん。
わが家のバラたち
「サハラ98」
「ノリコ」。庭植えと鉢植えと2株
お気に入り「ブラッシング・アイスバーグ」がほころび始める
「ブラッシング…」の隣には深い色合いの「バーガンディー・アイスバーグ」
門柱に絡めた「バレリーナ」も咲き出した
最新の画像もっと見る
最近の「随筆」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事