平方録

「痛み」の分け合い方

神奈川県のほぼ中央、大和市と綾瀬市にまたがる米海軍厚木飛行場は今から72年前に、日本占領の指揮をとるべくマッカーサー元帥が最初の一歩を印したところである。
以来今日に至るまで、かつての帝国海軍の飛行場は米軍に占領され続けている。

この厚木飛行場以外に、アメリカの前方展開戦略の要である第7艦隊の拠点が置かれているのが横須賀港であり、かつてのベトナム戦争で傷ついた戦車の修理工場として機能したのが相模原補給廠である。
横浜港のど真ん中には、依然として占領されたままの大きなふ頭があるし、沖縄県ほどひどくはないが、沖縄に次いで基地の数の多いのが神奈川県なのである。
置かれている基地の重要度は皆高いものばかりである。

これらの基地群の中で、長年にわたって特に問題視されてきたのが、厚木飛行場で行われる空母艦載機による夜間離着陸訓練に伴う、想像を絶する大騒音被害である。
数次にわたって住民が提起した騒音被害を巡る民事訴訟で、判決文の中には必ずと言ってよいほど「受忍限度を超える騒音にさらされ……」という文言が記載される。
現地を実地調査する裁判官の誰もが一様に抱く感想が、「受忍限度を超える」という表現に集約されているのである。
ボクも何度か飛行コースの直下で聞いたことがあるが、あの騒音のひどさは受忍限度云々などと言うな生易しいものではない。
五臓六腑がかき乱され、体中の臓器や血管が共振していき、ついにはばらばらになってしまうのではないかと思えるほどの強烈さなのである。
これでよく住民は耐えているなぁと呆れるほどなのである。

騒音の元凶である艦載機の夜間離着陸訓練というのは、滑走路を空母の甲板に見立て、エンジンの推力を絞って着陸態勢に入ってくる戦闘機が、着艦をあきらめ、やり直すために再びエンジンの推力を最大限に挙げて急上昇する訓練のことである。
たしかに、いつもいつも鏡のような海面に浮かぶ空母ばかりではないだろう。大きなうねりに前後左右に揺れる空母の、上空から見れば短い針のような極小のスペースめがけて降りていくのだから、その難しさは十分理解できるというものである。常に訓練していなければ維持できない技術なんだろうと想像がつく。
常に臨戦態勢にある第7艦隊の空母とその戦闘攻撃部隊にしてみれば、その訓練の重要度は極めて高いと言えるのだ。

この訓練が1機だけならまだしも、2機づつが編隊を組んで飛行場周辺を旋回飛行しながら次々に何度も何度も、それこそ間断なく深夜まで繰り返すのだから、住民はたまったものではない。
ただ、この訓練は空母が横須賀の母港に入って、定期的な点検修理を受けるときに限られているから、空母が作戦行動中は騒音から逃れられる。しかしいったん空母が戻れば騒音地獄と墜落の恐怖におびえることになるのだ。

住宅密集地にあるがゆえの騒音被害なのだが、この空母艦載機部隊の基地がついに山口県の岩国基地に移ることになった。
数年前には実現していたはずなのだが、日本政府がもたもたしているおかげで、おそらく10年以上足踏みしたはずである。
それでも、いよいよ今年の秋ころから順次移駐が始まるから、ようやく騒音被害からは免れることができそうである。

艦載機部隊が移駐する岩国飛行場は町並みから2キロ程度離れた瀬戸内海の海上に新たな滑走路を造って受け入れ態勢を整えたので、騒音被害の拡散といった面では、岩国市民にそれほどの苦痛をかけなくても済むはずである。
こうした深刻な懸案が解決に向かうというニュースに触れると、長年この問題に関心を持ってきた身にすれば、本当に良かったと思う。

その一方で、あれほどまでにしわ寄せが集中し、県民がどれだけ悲痛な叫びをあげて被害の軽減を訴えても、狭い島内だけでたらいまわししているような、一向に改善しない沖縄というのは、いったい何なんだと思う。
要するに痛みの分かち合い方の問題でもあるのだと思うのだが、悲痛な県民の声が届かない政治って、そんなのアリかよと思うのだ。

アメリカの45代大統領と仲良くなったと言って得意がっているわれらがアベなんちゃらに言いたい。
辺野古が唯一の解決策だなんて、貧弱な脳ミソの持ち主の考えであって、もうちょっとましな脳ミソを持っている大部分の日本人は、決してそな風には考えていない、ということを。
ただやる気がないだけ。負担や痛みは沖縄に押し付けておけばいいだろうという、怠惰で、意地悪な魂胆が丸見えじゃないの。
とてもサムライの取る態度には見えませんな。



円覚寺の舎利殿(奥、国宝)と僧堂(右)。僧堂は雲水たちの修行道場で、日夜厳しい修行が繰り広げられている。ちょうど般若心経を唱えているところに遭遇し、門の外まで声が漏れてきていたが、在家の人間たちが唱える速度よりずいぶん速い速度の般若心経だった。小気味よいと言えば小気味よく、修行に立ち向かう意気込みの表れのようでもあり、若者らしいはつらつさをも感じさせられた
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