青空はどこまでも青く、小春日和の暖かさ。
直線距離なら1キロ程度だが、せっかくの好天なので3、4倍の時間をかけて尾根伝いに行ってみることにした。
ボクの家の近所からはいくつもの尾根をたどるコースを選ぶことが出来る。尾根だらけなのだ。
今の時期なら落ち葉の降り積もったふかふかになった尾根道をカサコソ音をさせながら木漏れ日が漏れる中を歩くことが出来る。
この日たどった道は10年ぶりくらいになるご無沙汰の道である。
と言ってもコースの途中からは何度も歩いているのだが、登り口から数百メートルが〝浦島太郎の道〟という訳なのだ。
この尾根道の途中には140、50坪ほどの三方を樹林に囲まれた花畑があり、毎年春になると主にパンジーが咲き乱れる秘密の花園に変身する。
今から17年前、ボクは脳内の未破裂動脈瘤を除去するため、開頭手術を選択し、その手術待ちの不安な日々をこの花畑に来ては癒していたのだ。
咲き乱れるパンジーの花のうねりを眺めながら、来年もこの花園に自分の足でやってくることが出来るんだろうかと、漠たる不安な思いを抱きながら眺めたものである。
その花園は健在のようだった。もちろんまだパンジーの苗も植えられていなかったが、肥料をたっぷりすき込まれたとおぼしき何筋もの畝がきれいに整えられ、苗さえ持ち込めば今すぐにでも定植が可能なように準備が整っていたのだ。
黒かったボクの頭はもはや灰白色に変わりつつある。
少年易老學難成 一寸光陰不可輕 であるし、あるいは 年年歳歳花相似 歳歳年年人不同 と言うべきか。
この花園の奥に尾根筋へと続く細い道が隠れているのだ。
今もまだ通れるのだろうか… 少しばかりの不安がよぎるが、通る人が少ないのか、道は獣道のようにやせ細り消えかかっているが、上へ上へと昇っていくにしたがってこれまで通りの太い尾根道が現れてホッとする。
照葉樹の葉や落葉樹の葉が積み重なって、たどる道はどこもかしこもふかふかで心地よい。カサコソカサコソという落ち葉を踏みしめる音も心を軽くする。
ああ、昔のままだね、と言葉を交わしながら進む目の前に現れた異変にエッと絶句する。
辺りの景色が竹ヤブに変わった辺りである。行く手に数本の倒木があって道をふさいでいるのだ。
おまけに道だったところから竹が何本か伸びていて、道をふさぐのではなくて道が竹ヤブに呑み込まれてしまっている。
妻は戻りましょうよと言うが、辺りをよく見ると倒木を迂回するようにかすかながら道を作った形跡があるではないか。
道のすぐ脇に階段状のものが築かれ、丸太を横にしてステップになっていた。
この倒木は元は株立ちだったようでそこそこの太さのものが4本ほどもあって、大きな根株ごと倒れていたんである。
少なくとも1、2年前のものだろうが、倒れた木を4本も片付ける労力よりわき道を作る方が楽だったようである。
なんと、そんな倒木が道をふさいだ箇所が2か所もあったんである。
生きている森と言えばそうも言えるが、要は手入れが行き届いていないということではないのかしらん。
驚きはもう一つあって、上り切ったところで別の尾根道と合流するところで異変に気付いた。
「峯山山頂」と書かれた案内表示がぶら下がっている。
元々ひときわ高くなった場所だったが、うっそうと茂った木立の下には笹ヤブが密集していて、人が近づける場所ではなく、おそらくコジュケイとかヤブを好む鳥たちの営巣地だったような場所が、きれいに竹ヤブが切り払われて展望広場に変身していたのだ。
大きなヤマザクラも数本生えていた。
そう、この尾根筋一帯は山ザクラの巨木が多いのだ。ヤマザクラというのは真下で見るより遠くから眺めたほうがきれいなのだが、人情としてはやはり満開の花の下でその生気を感じ取りたいものである。
この開かれた山頂でははるか遠くに相模湾を眺めながら、弁当も広げられる。
人の気配のないだろう平日の満開のサクラの下はさぞかし天国の様相を呈するに違いない。
新発見である。足元に何とも魅力的な場所が出現したものである。
こういう浦島太郎も悪くはないゾ。
花畑を過ぎると照葉樹と落葉樹が茂る林を縫って伸びる尾根道に出る
落ち葉を踏みしめて鳴るカサコソという心地よい音を楽しみながら進むと
行く手を遮る倒木が
脇に作られたう回路(左端)をたどって反対側に回ってみると、若竹があちこちに伸びてすでに尾根道(右手の木が倒れている辺り)は消えてしまっている。昨日や今日倒れた木ではないことが分かるのだ
さらに十数メートル先でも倒木が道をふさいでいた
2か所の通せんぼを抜けるとようやく尾根筋の合流地点が近づく
見かけない案内表示に従って上ってみると
笹ヤブはきれいに切り払われて眺望が効くようになっているではないか
どんどん奥に進む
ありゃぁ~、こんな眺望が隠れていたんだぁ~
別の方角に目をやると、あれは逗子マリーナだナ
山ザクラが多いから花見には絶好かもしれない。よっし、弁当持参だな。もちろんカップ酒付き!
こちらは前から存在を知られた尾根筋の山ザクラの巨木で、いったん折れかかって垂れ下がった枝が息を吹き返して曲がりくねるさまから「おろちザクラ」と呼ばれている…みたい
気持ちの良い木漏れ日が漏れる樹林の中の尾根道を下って行く
こんな色合いのアジサイに出会った。花びらの根元はウグイス色である。オシャレな和の伝統的な色彩をまとった姿に見とれる
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