平方録

気ぜわしい季節はもう間もなくだ

ひと月近くも遠ざかってしまっていたので、新車の慣らし運転を兼ねて横浜イングリッシュガーデンに行ってきた。
気になっていたのはサクラの開花具合とバラの生育具合。
特にイギリスに渡ったソメイヨシノの2世だか3世に当たり、現地で改良されて日本に里帰りした「アーコレード」という品種がだいぶ成長してきているので、花付きはどんな具合かと気になっていたのである。

結論から言えば、まだ咲いていなかった。
昔からあるソメイヨシノの一部垂れ下がっている枝だけ沢山の花が開花しているが、同じ株でもそれ以外の枝は寒さに足踏みしている。
同様に何本か植わっているソメイヨシノも同様で、蕾は膨らみかけたまま寒さに縮こまっている状態である。
2、3日暖かい日が続けば、弓矢の弦をギリギリまで引いて引いて引き切った末にパッと放すようなもので、そういう咲き方も見ごたえがあるかもしれない。
今年のサクラは開花こそ早かったのだが、思わぬところでじらされているのである。

注目のもう1本はこのガーデンで種から育ったサクラである。
芝生の広場に向かって入口から奥に進んでいくと突きあたりで左右に道が分かれるが、右に折れた園路沿いの芝生の中に植えられているまだ2メートル足らずの背丈のサクラがそれである。
実生のサクラだから、まだ名前はない。一度くらい花が咲いたような気がするのだが、どんな花だったか、とんと記憶にない。
どこの馬の骨だかそれとも高貴な生まれなのか、素姓は分からないが、葉が茂るのが早いから、ヤマザクラ系統のサクラだと思う。しかし、一重なのか八重なのか、花の色は濃いのか薄いのか、はたまたピンクに近いのか、それとも白っぽいのか、それすら記憶にないから、まったく新しい花を見るのとなんら変わらない。
ゆえに楽しみなのである。さぁーてお立会! ってところなのだ。

花の位置を下げて観賞しやすいように、強いせん定をして切り詰めたバラ群の成長は今のところすこぶる順調のようだ。
つややかで瑞々しい葉が出始めていて、この葉で光合成を重ねることで太陽の恵みを一杯取り入れ、花芽も育んでくれるはずである。
暖冬の影響でバラの生育は全体的に10日くらい早いとは河合スーパーバイザーの弁だから、間もなく寒さも去って温度が上がれば、今年は五月の連休ころから見ごろになりそうな感じだと言う。
だとすれば後ひと月といったところではないか。

サクラの開花、満開も寸前だし、すぐに続いてバラの季節になるとは、やはり春は気ぜわしい季節である。
しかし、嬉しくも楽しい気ぜわしさなのである。
そこで浮かぶのは在原業平の歌。

世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし

そして

春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり

強い風を心配するのは西行法師。
こうした気分に浸れるのもすぐである。
漢詩にも心魅かれるものがある。

年年歳歳花相似 歳歳年年人不同

劉希夷の「代悲白頭翁」の一節が思い浮かぶ。
黒く豊かだったわが髪もいつのころからか減り始め、今では白いものも目につくようになってきてしまった。
春だって秋に負けずに、ものを思う季節なのだ。












まさに百花繚乱。まだまだ沢山の種類の花が咲いている=横浜イングリッシュガーデン
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