たった1人でわが家に遊びに来て何日かを過ごした後、自宅に戻る時の変らぬ光景なのである。
普段両親からはあふれるほどの自由は与えられていないし、むしろ厳しくしつけられている中で、学校が長い休みに入ると孫に甘くて大概のものは買ってくれ、少々のわがままも大目に見てくれる物わかりの良いジイジとバアバの許で過ごす時間は夢のような格別な時間なのだ。
そうした夢のような自由なひと時とも決別しなくてはならない瞬間が近づいてくる。
そういう思いが姫の胸の内には去来してくるのだろう。
普段は活発そのものでじっとしていることは少なく、しかも好奇心旺盛な目は超高速で動き、一瞬でも何か目に入ると声を上げてわれわれに知らせるのだが、その目の動きも止まってしまい、言葉も出なくなってしまっている小さな体を目の前にすると、その心の奥底で起こっているであろう葛藤に立ち向かっている健気さに胸を打たれるのだ。
姫の内面の葛藤は夜になって自分の慣れ親しんだベッドにもぐりこんだ瞬間に最大のピークを迎えるようで、母親から届いたメールによれば、最初は目じりに浮かんだだけの涙が次第に量を増していき、そのうち大量の涙とともにオイオイと大きな声を上げてひとしきり泣きじゃくるんだそうである。
泣き疲れて寝入るようだが、翌朝はそんなことはケロッと忘れて起きてくるのだという。
姫にしてみれば、新幹線の中から黙りこくり、最後の大量の涙と大泣きこそが、楽しかった夢のような世界から現実世界に戻るための重要な儀式なのである。
涙と大泣きの分だけ、成長していくのだ。
3年生の始業式はもうすぐである。
新入学以来2年間を過ごしたクラスの仲間とはクラス替えで入れ替わることになる。
「仲良しとまた同じクラスになれますように」。八幡様でお祈りをしたけれど、どうなるんだろう。
「リレーの選手に選ばれますように」ともお祈りしたそうである。その結果はどうか。
リレーの選手に選ばれれば、運動会には応援に駆け付ける約束をした。
テレビ電話で知らせてくるだろう。楽しみに待っていよう。
真冬並みの寒さが緩んで、ようやく春めいた陽気になってきた。
この陽気で、わが街のサクラのつぼみもだいぶ膨らんだことだろう。
わが家のバラたちの新しい葉はすこぶる元気で、油を薄く引いたようにテカテカと光り輝いて実にきれいである。
わが家の雑木の中で最も芽吹きの早いエゴノキも柔らかな葉を広げ始めた。
近所の山から掘り出してきたアケビにも濃いブドウ色の花がたくさんついて咲き始めている。
妻が散歩の途中で買った白い小花をつけたウツギの苗を定植したら、掘り起こした土の中はしっとりしていて、とても良い感じである。
多分地中の奥底まで春が行き渡り始めたんだと思う。
ようやくだけれど、良い春が巡ってきそうな予感である。
わが家の新緑トップバッター・エゴノキを西日にさらしてみた
近所の山から掘り出してきたアケビにはたくさんの花が
わが家のニリンソウも仲良く咲き出した
飢えっぱなしのムスカリが周囲に溶け込んでいる……
近所の自然公園のヤマザクラはまだこれからである
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