神社の境内に入ってしばらくすると、支度を終えた若が父親に抱かれて現れたが、なんと、おむつの上にまわしを締め、化粧まわしをして心細そうな情けないような目つきで、恨めしそうにこちらをちらちら見る。
その目つきだけで大方の心中は察せられるというのものである。
これから起こることへの本能的な不安が、その眼の色に出ているのだ。
頭には名前から一文字取った「隼ノ翔」という立派なしこ名が印刷されたかぶり物をしている。
色白のやけに白い肌が直射日光を浴びて一層白く見える。
身体健全祈願というお祓いを受け、さあ泣き相撲の取り組みだと思ったら、木陰に入ってしまい何と哺乳瓶からミルクを飲み始めた。
腹が減っては戦が出来ぬというが、まずは戦いの前に腹ごしらえですか、と肩透かしを食った感じである。
境内の一角に土俵がしつらえられ、周囲には白幡神社と染め抜かれた白旗、一心泣き相撲と書かれた幟旗が風にはためき、舞台装置は満点である。
観客は家族ばかりで、パラパラしかいないのが若干寂しいが、古からこの神社に伝わる伝統的な行事と言うわけではなく、今年で6回目という神社の客寄せのようなものだから、まァそれは致し方ないところである。
この日の参加料は13000円だそうだから、神社の経営も楽じゃあないんだろう。
さて隼ノ翔。土俵に上がる前に母親が力士役の男性に手渡した途端に身体をのけぞらせて泣きだし、いきなり準備万端という雰囲気である。
土俵上では行司が若の顔めがけて噛みつくようなしぐさを見せ、脅すように大声を上げるものだから一層泣きわめき、泣き相撲の面目躍如、横綱に推挙されるに十分な鳴きっぷりだったと言っておこう。
試練は続き、今度は四股の奉納である。
力士役の男性が抱っこしたまま四股を踏んでくれるのだが、ここでも「もういい加減にしてくれぇ~」と言わんばかりに、もうへとへとと言う感じの鳴き声である。
親の気持ちとは裏腹に、彼にとっては厄日そのものだったのではあるまいかと思われるほど、腹の底から十分すぎるほど泣き叫んだようである。
パンフレットには「赤ちゃん卒業場所」とあったから、そういうことなんだろう。
一昨日、わが家に夕飯を食べに来た際、4、5歩だったが初めて歩いたのを目撃し、母親もじじばばも大いに喜んだものである。
期待しようではないか。
隼ノ翔関、お疲れさんでした。

右が隼ノ翔