旅に出ると当然のことながら、その土地の味に接するのも楽しみの一つである。
トンネルばかりの連続にいいかげんうんざりしていたところで、ようやく高速道路を降りて昼食に向かった先は豆腐とホルモンの人気店である。
なんという取り合わせか、どんな料理か想像もつかないが、11時半をわずかに回っただけなのに、目指す店には行列ができている。
出された料理は単なる鉄板焼きだったのだが、老若男女を問わずジュージュー音を立てて届けられる鉄板の上のホルモンと豆腐を注文して、白いご飯に乗せてかっ喰らうのである。
濃いめの塩味が白米で中和されるためか、癖になりかねないB級グルメである。
さらに高速道路を北上して到着したのが飛騨古川である。
周囲を山に取り囲まれた平地に昔ながらの家並みが残る落ち着いた町で、天領だった土地柄か、一つ一つの家が立派である。
次に訪れる日本三大曳山祭で名高い高山も同じだが、京に近い土地柄ということもあるのか、経済力も高かったのだろう、絢爛豪華な屋台文化が伝わっていて、町のあちこちに屋台をしまっている大きな建物が存在している。
高山での晩餐はジビエ料理。
食べた獣は熊、鹿、猪。これに岩魚の塩焼きと山菜の数々。
どの肉も臭みがなく、これが獣の肉かというくらい癖もない。
その秘密は猟師も兼ねる亭主の血抜きの技によるところが大であるらしい。
仕留めた直後にしっかり血抜きができれば、臭みは全く残らないそうだ。下処理ってやつである。
獣臭さがないものだから、ただ珍しいだけでなく、美味しいんである。
獣肉に対する認識が覆った感じである。
猪鍋も美味しかったのだが、飛騨の猪はスペインのイベリコ豚と同様、山のドングリを食べて育つゆえの味なんだそうな。
岩魚も身がしっかりしている上、頭から骨ごと食べられ、こちらも良かった。
もちろん骨酒も堪能させてもらった。おそらく天然物に違いない。
しかし、何より美味しかったのはドブロク。
なぜか甘みのない辛口のサッパリした飲み口で、こんな絶品なシロモノに出会えるとは思わなかった。
獣肉を引き立てた最大の要因はこのドブロクかもしれない。
看板には「自美恵料理」と書かれてあって、亭主の講釈によると、飛騨の自然の美しくて美味しい恵のことなんだそうである。
なるほど、ネーミングも気に入った。
すっかり上機嫌になって宿に戻ったところ、午前3時集合らしいのだが、飛騨高山ウルトラマラソンに参加する青年と飲み物の自販機のところで一緒になった。
10時半をとっくに回っていたので、朝早いのに大丈夫かと声をかけたら、緊張してしまって寝付かれないんですという。
100キロに挑戦するそうなので大いに激励してやったら、「ハイっ、ガンバリマス」と嬉しそうだった。
今度こそすぐに眠れたろう。もうスタートしているころである。
豆腐とホルモンの鉄板焼き。油と塩が強烈
飛騨古川の街並み
ダイコンと煮付けられた熊肉、岩魚、鹿、猪鍋
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