平方録

ウルトラゴクラク

目の前の海を黒潮が流れているせいで、いくら寒い寒いといっても、なかなか氷点下の寒さにはならない土地柄なのだが、このところ-3度、-2.8度という具合に、目を疑いたくなるような最低気温の日が続いた。
今日は最高気温が14度にまで上がる予想で寒気はだいぶ緩むが、この先も日曜日が15度、月曜日に至っては21度などという予想数字が並んでいるのには驚かされる。

大寒は過ぎたけれど、寒さはこれからが本番という2月を迎えるというのに…
もっとも‟寒さの底”と言ったって、これはもう紙一重で、寒いことは寒いが、寒さの裏側にはもう春の姿が大きくなってきていて、隙あらば寒さにとって代わろうと、虎視眈々とその時を狙っている時期でもあるのだ。

年末にせん定を終えたバラの中には、すでに赤く染まった芽を膨らませかけているものもある。
庭に植えこんだ草花は霜柱にも翻弄されながら、まだ寒さにじっと耐えている時期だが、北風の当たらないベランダの陽だまりに置いてあるプランターに植えている春の草花は、例えばパンジーはずいぶんと花を開き始めているし、勿忘草も小さな真っ青な花を咲かせ始めた。

驚くのはアネモネの白花が咲きかけていることである。まだ完全には開ききっていないが、まさにあと数時間太陽の光を浴びれば、蓮の花のようにポンという音でも立てながら開ききることだろう。
北側の、全く日の当たらない家の陰で、毎年フキノトウが顔を出す。妻に見てもらったところ、まだだと言うが、これだってもう時間の問題である。
掘りごたつにもぐりこんで、読書なんぞしながら、妻手作りのフキ味噌なんぞを肴に日本酒を飲むのは、ボクにとって春を迎える大切な儀式のようなものである。

あのフキノトウのそこはかとない苦みというものは、まったくもって微妙な味で、まさに春の到来を告げるお印の苦さなのである。
買ってもらったものの、雪に閉ざされていてまだ一度も履いて外に出たことのない真っ赤な鼻緒の下駄を、家の中で履いて外に出る日を待ち焦がれているミヨちゃんと同じで、フキ味噌を舐めながら春を待ち焦がれるのである。

ウルトラゴクダン。
ウルトラゴクダン…ウルトラゴクダン…と、重ねて口にすれば、なにやら怪しげな呪文のようだが、漢字で書くと「超極暖」である。
下着の性能を一言で示している表現で、去年あたりから見かけてはいたのだが、そこまでしなくても、と気にもかけなかったのだが、今年の寒気は身に染みるのだ。
特に日曜日の8時からの坐禅会は暖房のない中で2時間を過ごすのだから、経年劣化が忍び寄る身にはチトこたえ始めてきたのである。
で、長袖の下着を1枚ゲットしてきたのである。

もう少し若いころ、温泉の脱衣所などでラクダの上下の下着を着ている爺さんを見ては、馬鹿にしていたのだが、何のことはない、まさに明日はわが身だったのである。
正直言って、情けないなという気がしないではないのだが、致し方ないじゃないかと自分を納得させてもいるのである。
やせ我慢したって何の意味もないのだ。家に戻って試着してみたところ、極めつけに暖かい。
これではウルトラゴクダンではなくてウルトラゴクラクである。
ウルトラゴクラク…ウルトラゴクラク…ウルトラゴクラク…



気の早いアネモネは白い花を開きかけている


小さな濃い青の小花を咲かせた勿忘草
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