客室はもちろんなのだが、廊下の所々にガムテープが置かれていたことである。
最初の一つを廊下で見かけた時は宿の人が何かの作業をした後についうっかり置き忘れたものがそのまま放置されているのだろうと思った。
ところが至る所にそれがあるものだから、そんな訳はなく、何か意図を持って置かれているということに気づくのである。
ではその意図とは何か?
わが妻は「すきま風を防ぐための目張り用かと思ったわ」などと言うものだから友人が大笑いして「まさか。目張りなら終われば片付けるでしょう。置きっぱなしになんかしないよ」と否定、「第一、いくら何でも客に目張り作業なんかさせやしないよ」。
「もしかして人生に疲れた都会からの客が部屋に置かれたガスストーブを使って楽になろうとするのを手助けするために宿が親切心を持って…」などと半畳を入れるものだから、一同「なるほど、秘湯ってところはそこまで親切に気を使ってくれるのね。さすがだわ」と大盛り上がりになった。
ガス自殺ほう助用の目張りテープってわけである。んなわけないだろっ!
正解はカメムシ退治用。
友人の奥方によれば、カメムシは指でつまむと臭いにおいを発するので、このガムテープでペタリと引っ付けてゴミ箱にポイするんだそうな。
そういえばわが部屋にも1匹いて、妻はティッシュペーパーでくるんでやっつけたと言っていた。
秘湯の知恵には及ぶべくもないのである。
今回の4泊5日の旅程のうち、友人宅に2泊させてもらったが、残り2日の宿はいずれも「日本の秘湯を守る会」に加わった宿で、秘湯めぐりのツアーでもあったのだ。
初日に泊った米沢市の白布温泉・西屋旅館の湯は野趣に富んでいてボクの腕ほどの太さがある打たせ湯が3本も滝のように湯を注ぎ続け、その湯を貯める浴槽からこれまた滝のようにあふれ出た湯が外に流れ去ってゆくという、滝と池と川が一緒くたになったところで人間が湯あみをするような風呂なのである。
だから、浴室にはお湯が出る蛇口・カランとうものが付いていないから、浴客は池のほとりで身体を洗い、池から掬った湯で汚れを流す寸法なのだ。
吹雪の日などは雪が舞い込むというように、外の空気は出入り自由になっているから半露天風呂のようなもので、ゆっくりと体を洗っている場合ではない。
でも湯の温度は40度程度に調節されているから比較的温めと言ってよく、じっくり浸かるには好都合で、しかも湯あたりしない泉質らしく4度も入ってしまった♪
加えて2軒とも地元の食材だけを使った料理の数々を、どう見たって心がこもっているなと感じられるほどに供してくれて、それでお酒も半端なく飲んだのに1万円とちょっとの値段で済んだのは秘湯のキツネにつままれたようである。
秘湯を守る会に入会しようとさえ思っているところなのだ。ハマりそうである。
鷹の湯の半露天風呂の「殿方」の表示の先にまず目に入るのが秘湯を守る会の提灯と木でできた浴槽
右手前には岩で囲った湯もあった。木の湯船の湯は熱すぎて入れず、ボクが入ったのは岩で囲った湯の方である。目の前は川が流れ、河原にも露天風呂があるらしいが冬場は積雪で近寄れない
湯から上がって部屋に戻ろうとしてふと目が止まったのが「殿方」の右手奥の暗がりに懸かっていた「婦人」という木製の小さな看板の文字。のれん越しにチラッと覗くと人の気配がない。
で、偵察してみると……ボクがついさっきまで浸っていた岩で囲った風呂が目の前に……(婦人用入り口から見た半露天風呂)
露天風呂の入り口の上に掲げられている看板をよく見たら「混浴半露天 Open air bath (Mix)」って…
でもボクの後から入ってきたのは若い4人組の男たちで、それもどやどやと。残念だったなぁ~
こちらは屋内の大浴場で、浴槽が4つと打たせ湯もあった
露天風呂には長~い廊下を通って行くのだが、この所々にガムテープが置かれているのだ
秘湯の電話は懐かしのジーコジーコの黒電話
〒ポストも昔ながらのまぁるい形
こちらは白布温泉・西屋の風呂。カランなんて必要ないのだ
滝のように流れ落ちる湯。打たせ湯だが下手に首筋に当てようものならむち打ちになりかねないほど勢い良く打ち付けて来る
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