3か月に一度、主治医の元に通って血液検査をして持病を制御しつつ、体調の維持に努めている。
丸顔の美人の女医さんで、いわば全身管理を任せていると言っても過言ではない。
この主治医は女性らしく端端に有無を言わさぬ厳しさをのぞかせるが、ここ数年はいつもニコニコと愛想が良い。
というのも、血液検査で示される数値が日ごろの‶節制〟ぶりを示しているので、自分でいうのも何だが、模範的な患者と言っていいのではないかと密かに思っている。
特に注意されている塩分摂取量を例にとると、男性では1日当たり8.0g未満とされているが、ここ数年は7gの範囲で推移させてきている。
しかも、4、5日前の検査では何と6.7gの低さで、女医さんがビックリするくらいの値だった。
これにはおまけがあって、結果として全身のナトリウム濃度が基準値を下回る状態が続いている。
このマイナスが続くとどういう影響があるのかと尋ねると「ボォ~ッとしたり、骨折しやすくなります」と言い、「そりゃ困るなぁ」とボクが言うと、「そうね、もう少し塩分をとってもいいかもしれませんねぇ」とまで言い切った。
こういうのを「患者の勝ち」って言うんじゃないのかね。
まっ、勝ち負けを競っているわけじゃないことは百も承知だが、検査結果と言う動かぬ証拠が示されているだけに「どうよ!」という気分なのである。
これ以外にも‶模範的な〟数値というのが示されていて、わけても肝臓の数値の良さは自分でも驚くほどなのだ。
現役時代は連日連夜の酒席が待ち構えていたので、肝臓を休める日を作らねばと週末の1日くらいは何とか酒を断つ日々をと模索していたが、それとて十分には実現出来ず、肝臓の数値は軒並み目の玉が飛び出るほど悪い数字が並んでいたものだ。
それが今は驚くなかれの模範的数値のオンパレード。
女医さんも一つ一つチェックする過程で「肝臓の数値も問題ないし…」と太鼓判を押す。
ボクも現役時代を振り返って隔世の感を感じながら、信じられない気分で数字を眺めるのである。
しかしながら、この喜ぶべき素晴らしく模範的な数値を見ながら一抹の寂しさと言うか、物足りなさを感じてしまうのだ。
「こんな日々が続いたら肝臓の数値が悪くなるはずないじゃん。家飲みばかりでしかも相手は毎晩変わらず山の神ただ一人。これじゃ酒量は増えないよな」と。
夜の街を酒を求めてさ迷いたい。
気の置けない友人たちと杯を酌み交わしながら談論したい。
バカ話で盛り上がりたい。
焼き鳥を焼く煙にいぶされたい。
肝臓の数値が気になるくらい飲んでみたい…
こんな当たり前のことができない日常が体にいいわけないじゃん !