平方録

浅草寺の五重塔で思い出すこと


わが家のハンゲショウの葉がもう白くなり、薄黄緑色の花まで咲き出した。
七十二侯の「半夏生ず」はカラスビシャク(烏柄杓)という薬草が生えるころのことだそうで、夏至から数えて11日目を言ったそうである。今の暦に直せば7月2日ころに当たる。
写真のハンゲショウ(カタシログサ)という植物の葉が半分だけ化粧したように白くなるころのことを指すという説もあるそうな。
しかし、いずれにしたって夏至はもう少し先だし、こんなに早く化粧が始まるのはちょっと記憶にないくらい珍しい。
いつものぞかせてもらっている釧路にお住いの方のブログには、昨年はお盆のころに大発生したミヤマカラスアゲハというチョウがもう現れて飛び回っていると書かれていた。
今年は季節の変化が速いのだろうか。

ボクは夏が大好きで、人の前でそういうと変人視されるのだが、好きなものは好きなのだから白い目で見られようが一向にかまわないし、今年の夏が早く来て長く続けばいいと思っているだけである。
夏の暑さが作物を良く実らせるのだ。嫌うなんてとんでもない。感謝すべきなのだよ。








昨日、ちょっとした会合があって東京の蔵前まで出かけてきた。東京の下町は久しぶりだったので梅雨入りしたての雨の街をぶらぶらと浅草寺まで歩いてみた。
境内はアジア系の外国人と修学旅行生ばかりが目についたが、やはり傘の花の開く参道や境内は歩きにくく、先に進むのに気を遣う分くたびれる。
本堂に参拝して手を合わせた後、軒下で境内の風景を眺めていて五重塔に目をやった時、ある逸話をフッと思い出した。

頃は昭和である。
時刻は深夜の1時近く。警視庁記者クラブで泊まり勤務についている記者連中がそろそろベッドにもぐりこんで仮眠を取ろうと緊張の糸をほどきかけた時である。
記者クラブのスピーカーが鳴り、同じく夜勤勤務の広報課員の声が次のように伝えたのだ。
「浅草で非現住建造物一棟全焼。木造5階建て。人畜被害なし」

この放送は全社の泊まり記者が聞いたはずである。
大部分の記者はそのままベッドから起き上がることもしないで週刊誌などを読み続け、あるいはまどろんだままだったが1、2社の記者は首を傾げた。
「木造5階建て? 浅草? 」

内容に疑問を感じたこの1、2社の記者は首を傾げつつ他社の記者の様子をうかがうが動きはない。
気付いていないなら、あえてバタバタ音を立てて他社に教えるようなことをする必要はない。そっと自社のブースから抜け出して外の公衆電話に飛びついて本社に連絡した。
連絡を受けた本社からはカメラマンが押っ取り刀で浅草寺に急行する。
本社への連絡を終えて取って返した記者は広報課に立ち寄って書き止めたメモを見ながら事実だけを伝える簡単な記事をひそひそ声で電話で送るのである。

翌日の朝刊最終版の1面には焼け落ちてくすぶる五重塔の生々しい写真が掲載されたのはいうまでもない。
この衝撃的な画像を載せられなかった大多数の新聞社の泊まり記者がデスクからドヤされ、こっぴどく叱られたのも言うまでもないことである。

記者の性として焼けた建物に人がいたのかいなかったのかは大きな意味を持っている。
人が住む建物であれば住んでいた人がどうなったかは最大の関心事で、もし行方が知れないとなれば焼死という可能性もある。
家族家族5人が暮らしている建物から出火した場合で5人とも行方が分からないとなれば大惨事である。

故に人が住んでいることを意味する「現住」なのか、それとも住んでいない「非現住」なのかは重要なポイントなのだ。
加えてこのケースでは「木造5階建て」も重要なキーワードになる。
われわれの身の周りでは木造建物ならば、せいぜい3階建てまでだろう。それが5階建ての木造建造物から出火したというのであれば、日本人なら当然五重塔を思い浮かべなくてはならないのだ。
しかも焼失したのが国宝や重要文化財級の五重塔であれば、それだけで大ニュースというわけである。

広報課員が丁寧に「浅草の浅草寺で五重塔焼失。けが人なし」と放送していればどうだったのか……

目の前に件の五重塔が建っている。
そぼ降る雨の中、当時の記者たち、顔も名前も知らない人たちばかりだけれども、今どうしているのだろうという思いがよぎったのだ。


雨雲に隠れるスカイツリーをまっすぐに撮ったつもりだが、地面は左に傾き、ビルもやや左に傾いて見える。地面を水平に、ビルをまっすぐ立たせるとスカイツリーはどうなるのだろう?
不思議な写真になったものだ。
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