ある日のことでございます。
御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。
池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れております。
極楽は丁度朝なのでございましょう。
(芥川龍之介「蜘蛛の糸」より)
小説では、この後、極楽の池の縁から池の中を覗き込んだお釈迦様は、地獄の底の血の池でうごめいている犍陀多(かんだた)という名の大悪党を見つける。
そして、この悪党が一度、足元のクモを踏みつぶさずに助けたことがあるのを思い出して助けてやろうと思い、極楽のクモがかけた美しい銀色の糸を手に取って犍陀多の上にスルスルと垂らしたのだった…
この蓮の花のつぼみに止まったシオカラトンボは、下界を見下ろしていたお釈迦様が時期をやや外れてまだ一つだけ咲き残っている蓮のつぼみを見つけ、退屈しのぎにトンボに姿を変えて極楽からひらりと舞い降りて来たのでは…とフと思ったのでアリマシタ。
きっと、今からでも決して遅くはないから、きれいな花を咲かせるのだよ、と励ましの言葉を掛けにやって来たのではないか…
外側の花びらの一部に、何かにかじられたような跡が残っているし、このままつぼみのまま終わってしまうことを哀れと思召したに違いない。
このシオカラトンボがお釈迦様だという証拠はカメラを近づけても逃げなかったこと。
そして、何かの拍子にいったん飛び上がっても、戻ってくるのは決まってこのつぼみの天辺だったこと…それで十分だと思う♪
場所は鎌倉・長谷の光則寺
ほとんどのハスはすでに咲き終わり、こうしてタネを結んでいる
中にはとっくにタネも作り終えて、からからに乾き、まるでシャワーの蓮口そっくりになっている時期である