平方録

如意庵のひめちらし

「春らしくウドといちごを散らしたちらしずしにしようと思っているんですよ」

上品でしかも美しい女性からそう聞かされ、運よく予約できた円覚寺如意庵のランチに出掛けてきた。
ちらしずしの中身はウドとイチゴに加えてナノハナ、ニンジン、ショウガ、カンピョウ、シイタケと錦糸卵にノリ。
白、赤、緑、オレンジ、黄、焦げ茶、黒と、見た目も楽しくきれいなちらしずしである。

ウドは繊維に沿って縦に切られているものを想像していたが、あにはからんや、繊維を断ち切る形の筒切りで使われていて、食感がこれまで知っていたウドのものと違って新鮮だった。
このウドとイチゴという食材がどのような発想で同時に使われることになったのか、興味のあるところで、単なる季節の物というだけなのかどうか。その辺の美意識とか味覚という感覚の基など知りたい気がするが、根掘り葉掘り聞くような事もためらわれ、あれこれ食材を検討する中で列挙したものの中から、たまたま手に入りやすさなどを考慮して使っただけかもしれない、などと勝手に想像してみる。

「花むすび膳」と題された献立は「ひめちらし」と題されたちらしずしのほかに三浦ワカメお吸い物、胡麻豆腐、五種盛り、山椒昆布とデザートのサクラの米粉ケーキ。
五種盛りの中身はガンモドキ、フキ、シイタケ、コンニャク、ニンジンを薄味で煮たもので、いずれも食材の味と食感を上手に引き出していて、私の口にはとても美味しかった。

この膳に般若湯がつけば申し分ないのだが、如何せん禅寺の塔頭である。
禅寺では食事だって修行の一つだから、俗世間のようなわけにはいかない。
そういうところに俗を持ちこむようなことは無粋の極み、と諦めるしかないのである。

冒頭のちらしずしの話をしてくれた上品で美しい女性は住職の奥さんで、この日は作務衣姿で頭に手ぬぐいを巻いた住職自ら膳を運んだり、住職の母親と思しき人も加わって、庵総出で接待をしているような趣である。

門扉を閉ざしていたり、開いていても庭を見るだけがせいぜいな塔頭の中で、ここ如意庵は水、木、金曜日のお茶と第二土曜日のランチに禅寺のきりりと引き締まった雰囲気を味あわせてくれている。
横田南嶺管長と同じ時期に雲水修行をしたという、50歳そこそこの管長と同い年の住職が、夫婦で力を合わせて禅寺の魅力の一環を体験させてくれているわけであり、敷居が高そうに見える世界に何とか新風を吹き込もうとしているのだろう。好感が持てるのである。

10日前にお茶を飲んだころと比べて、ウメは終わりかけ、早咲きのサクラが満開、ツバキの花も今を盛りと咲き競っている。
一段と高い位置にある山門を出ると、道路を挟んだ反対側の佛日庵のハクモクレンの巨木に密についた、固いままだった蕾も開き始めていて、梢に電飾の明かりを散らばしたかのようである。

時々日は差すものの曇り空の下、風は身を切るようにとても冷たく、3月も半ばというのに震えるような寒さなのだが、一旦動き始めた植物の動きは止まらないと見える。
間もなく彼岸だし、あと少しの辛抱である。




「ひめちらし」を中心にした「花むすび膳」
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