わけても夜になると波にもまれた夜光虫が波打ち際近くで青白く発光するのが幻想的でもあり、珍しいとあって騒ぎに拍車をかけ、海岸には夜中に人がぞろぞろと列をなして集まったらしい。
しかし、これは地元の人間にとってはさして珍しいことではなく、水温が上がる季節、特に例年の大型連休の頃にはよく見られる現象なのである。
だから「毎年よ 彼岸の入りに 寒いのは」と喝破した正岡子規のお母さん風に言えば、赤潮の発生も「毎年よ 海が真っ赤に 染まるのは」と言うことになるのだ。
だからボクにとっては「梅は咲いたか桜はまだかいな」式に、「赤潮来たかシラスはまだかいな」という思いで、3月11日に禁漁期間が開けたのに不漁が続いているシラス漁の行方が気になって仕方がなかったんである。
妻も心得たもので、赤潮のニュースが流れると早速網元に電話を入れて確認していたが、昨日になって獲れ出したことが判明したのだ。
季節の歩みに嘘はないんである。
夕餉の食卓に登場したシラスはピッチピチの生である。もちろんピッチピチと言ったって生きているわけではない。シラスにとっての生命線である鮮度が良いという意味で、朝獲れたものは夕方が生食できるデッドラインですよ、と言うくらい痛みの早い食材なのである。
だから江の島辺りの旅館では万が一のことを考えて、客の夕食に生シラスは決して出さない。そこは徹底しているのだ。
電話した網元が「いつもより小さいんですよ。それでもよかったら」と言っていたらしいが、ボクに言わせれば何を寝ぼけたことを言っているのか、シラスはそもそもちっちゃいではないか、という思いである。
しかし実際に登場した生シラスは網元の言葉通り、本当にちっちゃかった。
通常のシラスの半分以下の大きさしかないのだ。したがって、いつものシラスであれば幾百、幾千のマナコにじっと見つめられることになるのだが、小さすぎて目がはっきりとは見えないのである。確認できないくらいにちっちゃいんである。
お陰で口に運ぶにあたっては案外、気が楽になるのだ。
小さ過ぎて寄り固まっているせいか、魚体同士がねっとりと絡み合っていて、箸で塊をつかみあげても一塊に固まったままで、生姜醤油や酢醤油に付ける際にもばらけることがなく始末がいいのである。
さぁ、お立合い!
能書きが随分と長くなってしまったが、ついに口の中に入り、その味を確かめる時が来ましたゼ。入りますよ、口の中に!
……! 何んていうのかなぁ。ねっとりとしていてね、それでいてあのちっちゃな体のくせに一匹一匹分かるくらいの歯ごたえがあってさ、でも舌で押しつぶそうとすればそれも可能な弾力でさ、甘みも感じるのさ。
季節を生でいただいて、季節を舌の上で感じさせてもらっていると言ったところですかね。観念的過ぎますかねぇ…
最初のうちは冷やした日本酒。銘柄も茅ケ崎の蔵の「湘南」。これは安い割には切れがあっていけるのだ。生シラスはこの辛口の酒によく合うんである。
シラスも湘南、酒も湘南。湘南尽くしなのだ。地産地消ですナ。
次いで白ワインにも合わせてみたんである。
もちろん安ワインだが、探せばそこそこに飲めるワインもあるのだ。チリ産である。
辛口の白ワインにシラスの甘味が重なって、こちらもなかなか結構なハーモニーを醸してくれたんである。
安いがゆえに卑しからず! ってわけなのだ。
コメ良し、ブドウ良し、シラスさらに良し!
かくして、赤潮のバカ騒動と共にやってきた今シーズン初物のシラスは、わが口中に幸福をもたらしてくれたのである。
まさに〝口福〟である。
おかげで少しばかりチャンポンが過ぎちゃったけどね…
今シーズン待望の初物シラスのテンコ盛り。小さくてあまり目が目立たないところもいいのだ
シラスのふるさと相模湾。昨日の正午前後は引き潮で、満潮時には見えなくなってしまう七里ヶ浜駐車場前面の砂浜は大きく露出していた。ハトが1羽歩いてついてきたが、君には羽があるのだから飛びたまえ、と言ったのだが無視された
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