島崎藤村は「木曽路は山の中だった」と書いたが、隣接する飛騨から美濃へと通じる道もまた、折り重なる山裾を縫うように、山また山の中を行く。
木曽路はともかくとして、信州の山道は景色を眼下に見渡せるような道路もたくさんあって、そういう道を走るのは気持ち良いものだが、川に沿って作られている道は谷底の道である。
信号機がない代わりに通行量も少ないから、一定の速度を維持しながら、次から次に現れるカーブをひたすら右に左にハンドルを切り、通り抜けて行く。
車速を一定に保つ装置のついた最新型の車だったので、アクセルもブレーキも車に任せ、ひたすらハンドル操作だけに専念するだけだったから、そこは楽チンだった。
「お国のために役立つことは何もしていない」と、文化勲章も勲三等も辞退した画家の描く絵は、多くのものを省略しきった作風だが、色使いがなんとも言えず、しかも温かな眼差しで対象を凝視した上で描かれていることが見る者にも伝わってきて、見ていて心地よいのである。
澄み切った空気を吸いながら、見たこともないような光景に気づかされ、引き込まれていくような、なんとも言えない心地よさを感じさせる絵なのである。
不思議な力を感じさせる世界でもある。
ある意味で子供の作品のようにも見えるところに、この画家の特徴の一つが垣間見えているのかもしれない。
とにかく眼差しが温かく優しいのである。
故郷に誕生した記念館は東京の画家宅の美術館より作品数も多く、不思議な力を備えた絵をたっぷり楽しませてもらった。
今回の旅のハイライトのひとつでもあり、山道ドライブの退屈さはどこへやら、来てみて本当に良かった。
高山の夜明け
高山の街
店頭に置かれた水力によるからくり人形
熊谷守一つけち記念館の壁面を飾る猫。入場券もこの猫だった
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