平方録

新たな隠居の初々しさよ

勤め人時代の最後の8年間を過ごした会社の後輩から連絡があって遅い新年会へ。
と言ったってボクを含めて3人のこじんまりした集まりだが、誘ってくれた2人はリタイアしたばかりなので、社内事情にとても精通していて、最近の社内事情が次々と明かされるのを「へぇ~」「ほぅ~」という思いで聞いていた。

本音を言えばそんな話にはさして興味はないのだが、栄転したと思って喜んであげた人間がどうやら期待通りの働きを示していないようで、4月には更迭されることが決まったようだとか、一生懸命汗をかいていて、見どころがあるなと思って見ていた若手が会社を去ってしまったり、結構イレギュラーなことが起きているらしいのだ。
ちょっと前まで、そういうバウンド変化の激しい世界に暮らしていたわけだが、離れてみると何か遠い世界の出来事を見ているようで、ゴクロウナコッタという感慨しかない。
隠居暮らしが板についてきたというところだろうか。

今回誘ってくれたうちの一人は女性だが、京都芸術大学の油絵科の社会人コースに合格して4年間も絵の勉強をするのだといって張り切っている。
さすがに大学というところは厳しくて、宿題が多いらしい。
例えば自分の手のデッサンを80枚描くとか、白い布の上に白いものを置いて、それを3色のみの絵の具を使って何枚か提出させられたり、年がら年中絵筆を握っていないと追いつかない、とフウフウ言っていた。
その作品群というのをスマートフォンで写真に撮ったものを見せてもらったが、鉛筆やらコンテやらの使い方というか、筆致がなかなかのもので、「写真に撮ると上手に見えるんです」と謙遜していたが、大したものである。

クロッキーとかデッサンとかは絵の勉強の基礎中の基礎だから、こういうものは手が勝手に動くくらいになって初めてスタートラインに並べるものらしいのだ。
早く個展を開いてよ、と言ったら「とんでもない」とにらまれてしまった。

もう一人の男の方は理科系の大学を卒業した技術者だが、行政がやっている近所のカルチャースクールで色鉛筆を使った絵を習い始めたといっていた。
女性ばかりの受講者の中の‟黒一点”だそうで、ぺちゃくちゃしゃべってばかりの女性たちに比べて、きちんと手を動かしているので、それなりの作品が仕上がると見えて、講師から以前どこかで勉強したことがあるのかと言われたんです、と自慢していた。
こういう類の自慢話は聞いていて微笑ましくて、楽しいものである。
何より子供のように話す顔が輝いているのである。

わが身を振り返ってみれば、仕事漬けだった勤め人時代の後半あたりから、休みの日には全く別世界のことに没頭するように心がけ、しかも「男は群れるべきではない」とカヌー単独行を心がけ、四万十川を下ったり、相模湾を漕いだりもした。海が荒れていれば花作りに没頭したりして、会社の同僚たちとは一線を画して違いを際立たせていたのだが、今は特段新しい取り組みもしていない。
従って、おおむねこれまでの延長線上なのだが、それでもまぁいろいろなことに首を突っ込んでいるからなぁ…
新たな挑戦の必要性も感じないのである。

はしご酒は2軒で切り上げ、2か月に一度飲み会をすることになって散会した。
店を出たら寒いこと。20度に迫る昼間のバカ陽気が嘘のようである。



2軒目の居酒屋の壁
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