ボクの行きつけの居酒屋で話を聞いてもらいたいというので、まぁよかろうと出かけて行ったのが昨日の木曜日の夜のことである。
と言ったって、1人ならともかく2人以上で急にぶらりと立ち寄ったって、深夜の遅い時間ならいざ知らず、勤め人が仕事を終える時間帯に席を確保できる保証は限りなく低い店である。
で、その後輩に一応電話を入れておくように促しておいたのが1日前のことである。
店は相変わらず大賑わいで、それでも何とか席を確保しておいてくれたのだが、広いスペースの一角をわざわざ襖で区切って特別扱いである。
詰め込めば12、3人は入れるスペースを提供してくれたのに、そこにたった2人……
ボクの性格から行くと、大衆的なところで特別待遇のような真似をされると居心地が悪くてしょうがないのだが、ここのオヤジはいつだってそういう便宜を与えてくれるのである。
一度そうそう簡単ではない頼まれごとを引き受け、首尾よくそれをかなえてあげたことがあって、それ以来恩にきたのか、特別待遇が続いているのである。
何度もそうした扱いをしてくれるおかげで、ずいぶん助かった面もあり、重宝といえば重宝なのだが、たった2人分のスペースを確保するのに今回ばかりは大げさすぎる。
後輩がちょっと遅れるというので先に飲っていようと、とりあえずの肴にイカ納豆を注文したら、そんなのやめてスペシャル納豆にしろとメニューにもないものを勧めるので従ったら、小鉢で出てくるとばかり思っていところに何とどんぶりのような深い大皿で出てきたのには仰天させられた。
しかも、掻き混ぜてねばねばになった納豆の海の中にイカ、マグロの定番以外に他の様々な魚の刺身の端切れが泳いでいて、さながら竜宮城である。
名前の通り確かにスペシャルで、仕事が終わった後の従業員の夜食にでも出せば喜ばれそうな一品である。むしろご飯の上に掛けたら絶品の豪華版である。
しかも一口食べてみたら、これがおいしいのだ。家でもやってみるか。
この店は昨年末に放送された某テレビ局の情報番組で紹介されたこともあって、これまで以上に賑わっていた。店の前の行列は以前に増して長く伸びているのである。そんな中の特別待遇だったから余計に気が引けるのである。
数年前にも同じ番組で紹介される寸前までいったのだが、この時は事前に常連客の知るところとなり、「今だって混んで混んで、並んだって入れないときがあるのに、だれのおかげで繁盛していると思ってるんだ。この上宣伝して俺たち常連まで締め出すつもりか!」と騒動になりかけ、店が慌てて出演を辞退するという事態にまで至ったことがあったのだ。
あれから幾星霜…というのはオーバーとしても、今度は常連客から文句は出なかったらしい。団塊の世代の勤め人どもが夜の街を彷徨しなくなり始めた途端、客足にややではあっても陰りが見え始めていたのである。
そういう時代の流れの中でも未だに賑わている店ではあるが、カンフル剤にはうってつけだったようだ。
オヤジの少し照れたようなニンマリ顔の片隅に、今回は断らなかった時代の変化というものが浮かんでいたように思える。
まだ十分に開ききってはいないが、鎌倉駅前のおんめ様境内で茶花のリキュウバイが咲き出した。明治以降に日本に伝わった花だそうで、自分の名がつけられてはいるが、利休自身はこの花を知らない
最新の画像もっと見る
最近の「随筆」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事