氷雨が舞う中出かけ、帰り道はみぞれに変わるほどの寒さだったが、妻に誘われて山田洋二監督の「家族はつらいよ」を見てきた。
3時ちょい前の回で、天候の割には客の入りはそこそこだったようだが、客層に若い人はいない。
みんな熟年のカップルか老嬢たちのグループというところからも分かるように、映画のテーマは「家族の絆」を巡るコメディーなんだが、40歳以上にしか通じないんじゃないか。
熟年離婚を巡る騒動を中心に話が展開するからコメディーを見に来たつもりで、中には身につまされてしまった熟年カップルも大勢いるんじゃないだろうか。
わが家? 妻は血液型がABで二面性を併せ持った人だから、なかなかつかみきれないところがあって、実際のところ映画と同じように引き出しから突然、離婚届を取り出して署名とはんこをつけと迫るかもしれない。よって本音の部分は分かりませんです、ハイ。
どんな様子なのかと、チラッと横顔を覗き見したが、もちろん、よく分からなかった。
喜劇仕立てにしていて味付けが違っているからかもしれないが、「寅さん」シリーズや「幸せの黄色いハンカチ」と比べると、感動の度合いが違っていて、ちょっと物足りなかったというところが実感。
ただ主人公というか、離婚届をつきつけられる亭主の平田周造役の橋詰功が、素のままに演じているのではないかと思わせるくらいに、堂に入った演技で、これはなかなか見ごたえがあった。
ちょっと品のない笑い方とか、日常のしぐさ一つひとつに亭主関白のいい雰囲気が出ている。
まぁ、渥美清という天才的な役者、高倉健という“別格本山”“官幣大社”と比べてしまっては気の毒である。
劇中、平田周造が小津安二郎の「東京物語」の一場面をビデオで見るところがあって、この物語の中心人物である笠智衆演じるところの父親役が平山周吉という名前だから、ウリ二つなのである。
血を分けたわが子たちよりも親身になって接してくれた戦死した次男のお嫁さんに向かって「他人のあんたが一番親身に接してくれて…」と、家族の絆に関するキーワードのセリフを笠智衆に肩代わりさせてもいるんである。
今回の劇中でも次男の婚約者が重要な役割を果たしていて、素早い措置で命を救ったり、心配してアドバイスする役回りは実の子をさしおいて、この婚約者なのである。
家族の絆、夫婦と子ども、老いと死などを冷徹な視線で描きつづけた小津安二郎を山田洋二監督が意識していることは間違いない。
最近とみに増加しているとされる熟年離婚は確かに家族の絆を考える上では今日的テーマなのだろう。
ならば、この辺りのテーマで、あと数作を見させてもらいたいものだと思う。
わが家のスイセン。後ろは白のクリスマスローズ
最新の画像もっと見る
最近の「随筆」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事