今年、渡って来たホトトギスの初音を最初に聞いたのは5月の下旬だった。
下旬の初音は去年も同じで、その前は2年続けて中旬に聞いていたので「今年も遅いなぁ…」と気をもんでいたところだったので、明るくなり始めたばかりの早暁の空にあの特徴的な、とても美声とは言い難い「キョキョキョキョキョ…」という耳をつんざくような鳴き声が響き渡った時はホッとしたものだった。
それから6月いっぱいくらいは「トーキョートッキョキョカキョク…」とか「テッペンカケタカ…」と悪声を響き渡らせていたのだが、首尾よく恋の相手が見つかり、カップル誕生となったらしく、パタッと鳴き声も聞かれなくなっていた。
これが普通のチョウ類の親であれば仲良くこしらえた巣にメスが産み付けた卵をオスとメスで交互に温め、ヒナを返せば今度はせっせとエサを運んで巣立ちまでをかいがいしく支えるものだが、事このホトトギスに限ってはそういう親のかいがいしさは微塵もない。
カップルが誕生するとウグイスの巣に卵を産み付け、卵の世話から子育て一切をウグイスに押し付けて、若い親は何処かへ飛び去って2羽だけの新婚生活を謳歌するのである。
フツーのニンゲン様たちから見れば、誠に非道徳な親と言うしかなく、時々不埒で浅薄なニンゲンのカップルがホトトギスを真似て子育てを放り出して食事も与えず遊び惚けたり、もっと悪いことには自分が生んだ幼い子に暴力を振るって、挙句に殺してしまったりする鬼のような存在がクローズアップされて胸糞が悪くなる。
しかし、そんなホトトギスを擁護するわけではないが、預け先のウグイスがこれまた健気にわが子だと勘違いして必死になって育てるものだから、ある日、ウグイスは親の自分より大きくなった"わが子"にびっくり仰天こそすれ、虐待などあり得ず、極めて誠実かつかいがいしく十二分に親の責任を果たしてくれるのである。
子育てを放棄して遊び惚けるという不届きな割には、身元や子育て能力に長けたウグイスのところにチャッカリと「托卵」するという"責任感"だけはしっかりしていて、無責任に見えて案外しっかり? しているのだ。
「初音」と言えば春のウグイス、初夏のホトトギスを指す言葉として定着しているが、そんな御両所の因縁浅からぬ営みがこの自然界には毎年繰り返されているというわけである。
そのホトトギスの鳴き声が聞こえなくなって久しいのだが、ここ2、3日、どういう風の吹き回しか、例の「キョキョキョキョキョ…」という甲高い鳴き声が戻ってきて、夜明けの空などに鳴き声を響き渡らせている。
「ん?」と言う思いだが、これは子育てを放棄した親が成長したわが子を探している声か、はたまた成長して立派に育った子供たちが産みの親恋しさに鳴く声なのか……おぉ……
それとも成長した若鳥が早速カップル探しを始めていて、親に倣って一緒に遊び惚ける異性を探して鳴き声を呼び交わしているのかしらん…
筆力のある人ならばこの光景を題材に親と子のドラマチックな半生、あるいは生き別れの親子の涙の再会物語…なんてシナリオを描き、母性愛の強い人たちの紅涙を絞るような物語を作ってしまうことだろう。
もしくは、人間社会にも共通する若者たちの生態と重ね合わせた社会派のストーリーを編み出して世に問う人物が現れるやもしれぬ…などと妄想を膨らませるのである。
真夏の白昼夢…
キョキョキョキョキョキョキョキョキョ…♪
鎌倉行きの4両編成の電車がやって来る
前2両はラッピング広告の車両
ゆっくりと踏切に差し掛かる
レールと車輪のきしむ音が聞こえる
速度が遅いから何カットも楽に撮れる
江ノ電江ノ島駅~湘南海岸公園駅間
線路わきのボクにも電車の振動が地面を伝ってきて、ヒマワリが弱い風圧で静かに揺れた♪