昨日に続いて海の話題。
それも、いささか古くて、30代のころの記憶だから、かれこれ40年も前のことになる。
下手をすれば「昔あるところにおじいさんとおばあさんが…」の日本昔話になりかねない、カビが生えてもいいくらいの話である。
季節の頃ならちょうど今頃のこと、休みの日の事だったと思うが、早朝から自転車のパトロールに出て腰越漁港に差し掛かると港内の岩壁に何人かの釣り人がいて、どことなく活気づいていた。
釣りというものは海面のウキを見つめてじっとしているイメージだったから、違和感を感じて近寄ってみると、サビキという小さな釣り針がたくさんついた糸を海中に垂らした釣り人たちが、竿を何度か上げ下げしたあとに空高く引っ張り上げると、サビキ針に小さな魚が何匹も引っかかっていて、ピチピチと朝日に照らされて空中で踊る姿がなんだかとても魅力的だった。
何を釣っているのかと聞くと「アユだよ。アユの稚魚だよ。そこの釣り宿でサビキを売ってるよ」と教えてくれた。
川魚の人気者のアユは前年の晩秋に川で卵からかえると海に下り、稚魚の内は海で育つ。
そして、そこそこに成長したアユは春を過ぎると川へ移動し、上流へと昇って行くのだということを、その時改めて認識したものだった。
後日、教えられたように漁港の目の前の釣り宿で竿とサビキ針を買い、見よう見まねで糸を垂らして何度かしゃくりあげて見ると、竿の先に軽い「抵抗」を感じ、引き上げてみると5、6匹のアユが空中に飛び出してきて、朝日にキラキラと光っている。
体長は5、6cmといったところ。
そしてなんといっても、目を奪われたのは背中が緑色に輝くことだった。
香魚と呼ばれ、さわやかな清流の香りが漂うイメージのアユの面目躍如といったところで、成魚にかすかに残る緑の魚体を思い浮かべ、なるほど"栴檀は双葉より芳し"かと痛く感心させられたものだった。
昆虫の玉虫もきれいだが、朝日に照らされて空中でピチピチ踊る緑色の稚アユの美しさはそれ以上ではないかと思う。
2、3年前に知ったことだが、パトロール途中で立ち寄った大磯漁港の岩壁に掲げられた看板に目立つように「稚アユ釣り禁止」と書かれていた。
「?」と思ってネットで調べてみると資源保護のために相模湾一帯で禁止されていることを知った。
当然だと思う。
養殖した成魚を放流しなければ魚影を維持できない川が増えているそうだし、そんな事情がありながら"ゆりかご"に入っている稚魚を釣り上げてしまうことはどう考えたって変な話だ。
釣りあげた稚魚はから揚げにすると、ビールのいいつまみになった♪
朝日を浴びて緑色に光るピッチピチの魚体の美しさは春の到来を告げるちょっとした風物詩と言ってよく、早春の稚アユ釣りは忘れられない思い出の一つなのである。
鎌倉・腰越漁港
国道134号が漁港のすぐ脇を走っている
この港内には今稚アユが群れ泳いでいる
漁港のすぐ西側は片瀬西浜と並んで"東洋のマイアミビーチ"とうたわれた人気海水浴場の片瀬東浜