ベッドに入ってウトウトしかけた途端、枕元で救急車の止まる気配を感じた。
救急車のサイレンは特段珍しいものではないし、遠くから、あぁこっちに向かってきているなとは思ってはいたが、半分眠りに落ちかけていたので確かめるつもりもなかったのだ。
すると妻が「起きてる? 今、家の前に救急車が止まったのよ。お隣らしいわ。誰かしら」と寝室のブラインド越しに心配そうに見つめている。
それであれやこれや実況中継するものだから、仕方なくボクも起きてブラインドを透かして見ていたら幼稚園に通い始めたばかりの次男君が母親に抱かれて玄関から出てきて救急車に乗り込んだ。
その後のことはまだ分からない。
大したことはなく家に戻ってこられたんだろうか。
それとも入院を要するほどなのか…
この若い一家は4、5年前に引っ越してきた。母親は山形・村山の人で父親はラグビーワールドカップの会場になった鵜住居スタジアムのある岩手県釜石市の出身。
スタジアムが出来た場所にはもともと小学校と中学校が並んでいたが、両方とも津波で流されてしまった。
そこの卒業生だという。
小学校2年生になったお兄ちゃんと2人兄弟だが、人懐っこい兄弟で、彼らが庭に出て遊んでいる時にボクの姿を認めようものなら、大きな声で「こんにちわぁ~!」と競い合うように挨拶してくる。
妻はもう一つ別なことを心配していた。
いわく、わが家の前で救急車が止まったのだから、ご近所さんはわが家の夫婦2人のうちいずれかが病院に運ばれたに違いないと心配しているはず。電話はかけてこれないだろうから、朝になったらこちらから安否の無事を伝えようかしらなどと気をもんでいる。
確かに、昨夜は救急車が止まるとしばらくして雨戸のシャッターを開けるガラガラという大きな音がよその家から聞こえてきた。
運ばれるのがどこのだれかは井戸端の重要議題であるのかもしれない。
今日は一日中雨が降り続けるという予報が出ている。
しかも強く降りそうだという。
その兆しでもあるかのように、起きて見ると音を立てて降っている。
天気予報は気温は「低い低い」と言っていたが、部屋の中は24度あるからそれほどでもない。
娘から20数年前にもらったニューカレドニア土産の「LE GRAND BLEU」と染め抜かれた長袖のトレーナーを羽織りはしたが下は短パンでも寒くない。
昨夜の出来事を思い出しながら、さて何を書こうかと気付け薬を舐めだすと目の前のガラスの折り戸に部屋の中がぼんやり写っているのに気が付いた。
白いテーブルの上にステンレスのマグカップ、デジタル時計の背中、小さなショットグラス。そしてよくよく見ればボクが着ている長そでの白いトレーナーの腕部分も…
ショットグラスにはちゃんと琥珀色をした液体が注がれているのまで天然色ではっきりと分かる ♪
どこか別の世界を垣間見るような気分。
今日1日をどうやって過ごそうか…
見出し写真に続き調子に乗ってもう1枚、今度はいただいたシングルモルトの瓶も添えて写したのだが、外はだいぶ明るくなってしまって…