鳥のように軽やかに、と言いたいところだが、そうはいかず、勢い余ってつんのめるように空中に飛び出した、という方が表現としては合っている。
でも確かに頭を先にして手も足も、もちろん身体のどこも地球に接しないまま約1メートルは飛んだんではないだろうか。
湘南海岸のサイクリングロードではようやく堆積した砂の除去作業が始まったが、まだすべてが除去されたわけではない。
まだ手つかずのところもあって、奇特な人が砂をどけてくれたのだろう、自転車1台分のスペースができているところを走っていた時である。
よそ見をした瞬間にハンドルが振れ、堆積した砂の中にタイヤが乗り上げてしまったのだ。
サラサラの砂といえども抵抗はたいしたもので、自転車はたちまち推進力を失ってしまうものなのだ。
それが、乗り上げた瞬間は、勢いがあるものだから若干は進むのである。
おっ! このまま進んでくれるかな、とその瞬間は思ったのである。時間にすれば1、2秒のことである。
しかし、すぐにそれが間違いであることに気付かされることになる。
行き足をなくしてしまった車輪に対して、自転車に乗っている身体はそれにはお構いなしに、さらに前に進もうとする力が働く。
するとどういうことになるか。慣性の法則にのっとり、身体は自転車をおいてけぼりにして前方に向かって飛び出そうとするのである。
この時も、その様子はスローモーションのように、あっ! やばい! 飛び出すぞ! と思った瞬間、時間が止まったように空中に飛び出して行く己の姿を見ることになる。
あぁあぁあ~というのはターザンの雄たけびだが、今回はそれとは異なり、いけねぇ、やっちゃった! という後悔の念が混じった失望の叫び声である。
その声とともに空中を弾丸の如く? 飛んだのである。
う~、着地が怖い! ほんとにそう思った瞬間、身体は積もり積もった柔らかな砂の上に軟着陸するのである。
タイヤが砂に乗り上げた瞬間から数えて2、3秒のことである。たぶん。
身体全体が砂の上に飛び出していたらもっと良かったのだろうが、スピードを落としていたので、膝下までしか飛ばなかったのである。
したがって右足のひざの上2か所と膝下1か所に擦り傷を負ったのである。自転車の車体に振れたためにできた傷である。
しかし、傷はちょっと血がにじむ程度のかすり傷だけで済んだのだ。
打撲もなし。両手や左足、それ以外の部位も全く無傷である。
砂のせいで空中に飛び出す羽目になり、しかし砂のおかげで大けがを免れたことになる。
似たような寓話がなかったっけ? 思いつかないなぁ。
平日だったのでコース上には人影がなく、幸か不幸か、わが“空中飛翔の図”をしかと目撃した人はいない、と思う。
ただ、軟着陸して大けがにならず、う~良かった、とうめき声と共に傷を確かめているところに、ママチャリの若い男が通りかかったが、自転車と共に転がっている姿が目に入らないかのように、シャカシャカとペダルを漕いで通り過ぎて行ってしまった。
「大丈夫ですか? 」くらいどうして言えないんだ?
この野郎! おまえは将来絶対に孤独死するぜ! 人知れず寂しくな。薄情者め。
♪ 「マリリンモンロー」 ノォ リタァーン
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