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平方録

大物だよ キミは

幼稚園年中組の「若」の運動会を見に行く。

秋は近所の小学校の校庭を借りて大々的にやるのだが、春は年少、年中、年長の各固まりごとの開催で、園庭が狭いからの苦肉の策であるようだ。
狭いから演技や競技に興じる園児たちの姿がとても間近で、表情もよくわかってなかなかよろしい。
しかも、優先席と書かれたテントがいくつかあって、そのうちの真ん中のテントの最前列に陣取ったから特等席である。

この日は梅雨入り2日目だったが時折青空が顔をのぞかせ、気温も28度くらいまで上がるというので、短パンから日焼けした足をさらし、頭にはキャップをかぶっていったから40歳前後の疲れたようなお父さんよりよっぽど若く見えて目立ったんじゃないかと思っている。
だから優先席に座っていること自体、訝しがられたんじゃないかと…


さて、若。
運動会は昼過ぎからだったので、家で食事をしてきたというが、好物のソーメンを食べたくないと言ってほとんど手を付けなかったらしい。
そのココロはどうやら緊張にあるらしく、食べたくないとかお腹が痛いとかを理由に挙げていたそうな。
母親によれば緊張するといつもそうだという。
そんなわけだから両親と共に幼稚園にやってきた若は父親の足にしがみついて、べそをかきながらぐずっている。
すると若い女の先生が飛んできて若の手を引いて友達の元に連れて行こうとするが、最初の内は足を突っ張り、腰を引いてぐずる。

担任の女の先生のことは好きらしく、多分優しく言われたりしたんだろう、引けていた腰も元に戻り、みんなと合流できた!
ったく世話のかかる奴め。

それやこれやで始まった徒競走。
5人一組で走ったのだが、スタートの合図の笛の音が鳴り、他の4人が一斉に駆け出しても無反応。スタート係の先生に促されてようやく走り出すが、それも走るというより早歩き。表情はと言えば、心なしか半べそ状態にも見えて、リレー選手に幼稚園の時から選ばれ続けている姫とは月とスッポン。
ボクにはドラえもんが現れる前ののび太の情けない姿が浮かんだのだった。

記録係で写真を撮っていたお姉さんもなんかおかしかったと見えて微笑みを湛えて振り返っていた。
ヨーイドンにも反応しないなんて…。いいんだ、人と同じである必要なないんだ。キミはキミの道を行け。キミは何という大物か。将来が楽しみだぞ。
あの巨人軍の長嶋茂雄だって中学に上がる前までは体も小さく「ちびちゃん、ちびちゃん」と周囲から呼ばれていたと、本人が語っていたからな。
駆けっこがビリだったかどうかは知らないけどね。


後の競技は親と一緒のものばかりだったせいか、はたまた徒競走を終えて緊張の糸を緩めたせいか、父親と一緒に楽しそうにやっていた。
ボクの時代は運動会を親が見に来るなんてことはなかったと思うし、ボク自身が親になった時も見に行かなかった。
当然のこととして親と一緒に演技するなんて記憶も無いわけで、それに比べたら若はそれなりにいい体験をしているんだと思う。
これもまた時代。




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