平方録

ブルトレを思い出した

東北の友人夫妻が3泊4日の日程でわが家に泊まりに来る。

友人夫妻は農家ではないが、広大な実家敷地であれやこれやと野菜を育て、よくできたと言っては大きな段ボール箱にぎっしり詰めて、こちらで八百屋が開けるくらいに送ってくれている。
今年の初雪の便りは例年に比べて遅いらしいが、それでもようやく白いものがちらつくようになってきたとかで、いよいよ農閑期ということになり、骨休めを兼ねて花のお江戸の空気を吸いがてら遊びに来るのである。
農家の人が秋の取入れを終えてヤレヤレとほっとし、疲れを取るために湯治に出かけるようなものである。

聞けば東京駅まで夜行バスで来るという。
新幹線なら2時間半のところを7時間超かけて走ってくるのだという。
何でまた? と聞くと、妹夫婦に勧められたとかで、料金も安いし1度試してみたいという。
しかも午前6時前に東京駅に着くそうで、移転してしまった築地市場周辺を自分の目で確かめ、場外の行きつけの店に立ち寄って朝食が取れるのはかえって好都合だなんだそうである。

問題は車内で十分な睡眠が取れるかどうかだが、座席はほとんど水平になるくらい倒すことが出来て、おまけに座席ごとにカーテンで仕切られるから個室のようになるんだそうな。
それでなくとも正真正銘のジジイとババアになっているのだから図太さは筋金が入っていることだろうし、それもへっちゃらかもしれぬ。
疲れ果てた顔で現れるかそれとも普段と変わりない表情で現れるか、迎えに出た時の表情が楽しみである。

今から15年ほど前、熊本市で開かれた会議に出席した後、翌日横浜の本社で予定されていた午前10時からの会議に間に合えばよかったので、阿蘇のふもとを列車で横断して大分に出、そこから始発の寝台特急「富士」に乗って帰って来たことがある。
ブルートレインってやつで、大分を発車するのが午後3時過ぎという、寝台特急にしてはずいぶんと早い出発なのだが、やたらと地元の九州特急に追い越されるという〝日蔭者扱い〟だったが、お陰で九州東岸の景色は堪能できた。
関門トンネルを抜けるころになるとようやく夜のとばりが降りて、夜行列車の雰囲気になるが、山口県内に限っては通勤定期でも区間特急券さえ買えば乗れるということで、数人の乗客がラウンジカーに姿を見せたのが新鮮だった記憶がある。

大分駅で買った酒2合とオレンジリキュールという焼酎のような酒は門司までの明るいうちに飲み尽くしてしまい、車掌に聞いたら門司駅の到着ホームに1か所だけ売店があり、そこでなら酒が買えるだろうという。
ただし停車時間は5分しかありませんから急いでくださいネと言われ、売店の前で停車する号車を聞いてドアの前で待ち構えていて停車と同時にホームに飛び降り、売店1番乗りで首尾よくカップ酒3本を買い込んだのだった。
関門トンネルを抜けた後、下松、柳井辺りまでは意識があったが次に気づいたのは更地ばかりの街が水銀灯にボォ~っと浮かび上がっているところで、どうやらそれは阪神淡路大震災で大きく被災した神戸市長田区辺りだった。
それでその後目を凝らして見ていたが、暗くてよく分からず、大阪駅に止まったのは覚えているがその後気付いたのは富士川を渡る直前の車内放送で、「ただいま左前方に列車名を拝借した富士山がお出ましになり歓迎してくれています」というアナウンスだった。

慌てて外を覗いてみるとすそ野まで何も隠さずに姿を見せる富士山がくっきりそびえていて、おもわず「おぉ~!」という叫びが漏れるほどだった。
あの光景はボクの列車旅のハイライトの一つといって良いくらい記憶に残っている。
かくして寝台特急車内では案外よく眠っていたということになる。

夜行バスの旅にどんな尾ひれがくっついてくるか、〝築地その後〟も含めてそれはわが家に着いた後の食事の時のお楽しみである。



気が早くて育苗中から咲き始めた「みやび」(左の2つ)と「ライチ」


こちらは「モルフォ」

コメント一覧

heihoroku
Re:ご友人
学生時代に利用した東京駅の横須賀線ホームはブルトレのホームの隣でしたから、乗り込む人の姿を見ては垂涎の的でした。
結局、社会に出てもあまり利用するチャンスがなく、大分から横浜まで乗った「富士」が唯一の思い出です。
あれこそ鉄道旅の真髄、白眉ですね。
ぜひ札幌行きと西鹿児島行きを復活させてもらいたい!
高麗の犬
ご友人
農閑期利用のノンビリバス旅、しかも築地で朝食かい!
最高の選択ではありませんか。場外?変わり果てているからねぇ。お馴染みの店がちゃんとあればいいけれど。
ブルートレインは涙が出るほど愛していました。
酒とスルメの匂いが染み付いたノリがやたらにきいたシーツ。大阪発、海沿いを青森まで北上する日本海に乗りたかった。パンジー咲きましたね!やはり氏素性の麗しい品種だけあって典雅な香りだ。
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