よく晴れ上がり、歩くと汗ばむような陽気の11月1日の横浜港新港ふ頭。
久しぶりに出かけた横浜港の場違いと思われるような場所で、異様とも形容したくなるフネに遭遇した。
お尻を陸に向けて係留するのは船を止める時の常識。
何故って、いざ出航っていう時にサッと出られるからで、ミナトに行けば停泊している船がことごとく舳先を海に向けているのが分かるだろう。
特に軍艦の場合はもたもたしていたら合戦にならないうちに撃沈されてしまうし、漁船だってもたもたしていたら魚影に逃げられてしまう。
これぞまさしく「よぉ~そろぉ~」の備えと言ってよい。
その真っ白なお尻に描かれた船名を現す文字は見て分かる通りの「A」一文字。
ということは、氷川丸だとか飛鳥とかクイーン・エリザベスなどと、意味が込められた名前に混じって、このフネの名は味気ないような、はたまた記号としか思えないA号。
そして船名の下に表記が義務ずけられている船籍港は何と水爆実験場があったビキニ! 焼津漁港所属の第五福竜丸が被ばくしたあのビキニ環礁のビキニ!
美女に欠かせない、アノ水着の名前もビキニ。
ところでビキニってどこよ?
南太平洋だろってとこまではおぼろげながらわかるのだが、だらりと垂れた国旗はどんな図柄か皆目わからず、ネットで調べると今はマーシャル諸島共和国というれっきとした国に属する地名ってところまでは判明した。
それにしたって、フネっぽくない姿だよなぁ。何なのさこのフネ? ってのが一見した時の感想。しかも、係留されているのは新港ふ頭の海上防災基地の一角。横浜に本部を置く第三管区海上保安本部に所属する巡視船艇の専用岸壁なのだ。そんな場所に停泊しているので、ひょっとするとどこかの国の公船が表敬訪問にでもやって来たのかとさえ思ったほど。
場所柄からすると監視対象なんだぜ、きっと…
それにしたって異様な雰囲気。しかも真っ白。
船体はまるで潜水艦。普通の船舶は舳先の両舷にも船名を書くがこのフネにはないから、ますます怪しい。
で「A」と「BIKINI」を手掛かりにネットを検索してみると、ウソかホントかは知らないが、以下の概要が書かれてはいた。
船名はやはり「A」。総トン数5959トン、全長119m、幅18.87m、航海速力19.5ノット、乗客定員14人、乗組員42人、2008年竣工。そして持ち主はロシアのアンドレイ・メレニチェンコなる大富豪だそうな。
何だつまんねぇ~。生きた金の使い方を知らない成金ヤローの道楽じゃん。バカバカしい。
こちらは国の重要文化財に指定され、山下公園の前に係留されている日本郵船の「氷川丸」。
かつて横浜とシアトル間の北太平洋航路に就役していた。第二次大戦では病院船として徴用されたため撃沈されずに生き延びた船である。
チャップリンもこの船で日本にやってきた。加納治五郎が亡くなったのもこの船だったっけ?
この船の方がよっぽど素敵で美しく、しかもロマンにあふれている。
こういうのが正統的な船ですな。ミナト育ちのボクにはそう思える。
ベイブリッジと並んでもこの美しさ
これぞ船、これぞ客船…貨客船だけどね。優美じゃないですかぁ~
山下公園を挟んで氷川丸と反対側の大桟橋に停泊していたのが日本郵船の二本筋を煙突に描いた後輩客船「飛鳥Ⅱ」
新港ふ頭側に回って赤レンガ倉庫越しに見る飛鳥Ⅱ
新港ふ頭に10月31日にオープンしたばかりの新港ふ頭客船ターミナル。客船が集中して大桟橋に停泊しきれない場合にこちらのふ頭を使うためで、旅客用の手荷物検査や通関手続きを行う施設が出来上がった。
そして上の階にはホテルとレストランなどの飲食店が開業し、景色が随分違った。この商業施設の名前が「ハンマーヘッド」。古い横浜港を知る人にはオヤッと思わせる命名でボクもちょっと気にはなった。
これが名前の由来のハンマーヘッドクレーン。50トンを持ち上げる。
1914年にイギリスから買い入れた横浜港のクレーン第1号で横浜港の発展を支えた縁の下の力持ちのような存在で、経産省の近代化産業遺産に認定されている。
ボクがこの起重機の存在を知ったのは中学生のころで、小学校の頃は怖くて近づけなかった埠頭に中学生の夏休みに‟探検〟に出かけ、この武骨な姿を認識したのが最初。その後忘れていたが、50年以上たって商業施設の名前にも使われるようになったことは思いもよらないことだった。
この種の起重機は三菱重工長崎造船所と佐世保重工佐世保造船所の2か所で今も現役として活躍し、世界的にも17基しか残っていない貴重な近代化遺産だという。